編集長見習い日記 その2

日本ヒト脳機能マッピング学会について

 

私は現在、日本ヒト脳機能マッピング学会のホームページの製作、編集をうけおっている。この学会は、様々な分野の研究者が参加しており、脳外科医やfMRI、PET、MEG、光トポグラフィー etc.の機械メーカーや、検査に必要な基礎研究を行う研究者たちが参加している。この学会の研究成果は、研究者ごとに様々な目的に活用されていくと思われ、今後どのような方向性に参加者個々の研究が進んでいくのだろうと考えながら私はHPの製作、編集をしている。
 その研究の一つの方向性として私が理解できるものに脳機能マッピングの手術適応が挙げられる。てんかん、脳腫瘍、脳動脈瘤 etc.病巣を摘出する際に脳の重要な機能を傷つけない手術が求められる。言語野、運動野、視覚野、呼吸、嚥下機能がどこにあるのか正確に特定する必要があるし、精度の高い画像診断技術が求められる。機械の進歩、そのために基礎研究、治療、診断技術の進歩、脳の機能局在を明らかにすること、それらの情報交換がよりよい症例結果につながる。
 私の身近な例では、難治性てんかんの子どもが外科手術をしてもらった。てんかんとは脳細胞の異常興奮といわれている。2年以上薬でてんかん発作をコントロールできない場合は外科治療の適応だといわれている。脳細胞の異常興奮は、周囲の脳機能の働きに障害をあたえる。時には脳機能を破壊していく。私の身近な手術をしてもらった子の例としては、発作によって手足が痙攣し、言葉を話すことができなくなっていた。しかし、MRI、PET、によって前頭葉にある病巣をつきとめることができ、手術で取り除くことができた。術後は手、足の痙攣もおさまり、言葉もでるようになった。症状から、脳機能のどこに、病巣があるのか、正確につきとめるには、精密な画像診断技術が必要で、そのためにも、様々な脳の機能局在データを正確に整理し、fMRIやPET,SPECT、MEGなどでより正確に病巣を描き出せるようになることが必要である。この手術の成功は手術技術はもちろんのこと、ドクターの脳科学的知見の正確さ、MRI,PET.etc.の機械の進歩によるところが大きいと思われる。
 この視点が脳機能マッピングの重要な方向性の一つである。この他にも、現在、文部科学省で「脳科学と教育」という検討会が行われている。OECDのプロジェクトとして米国が「脳の発達と読み書き能力」、英国が「脳の発達と数学的思考」、日本が「脳の発達と生涯に亘る学習」を柱に脳研究を進め、教育に反映させていこうという動きである。ただ、日本の「脳科学と教育」検討会は参加者に、脳科学の専門家が少ない。脳科学の最前線で仕事をしている研究者たちは参加する余裕がないのである。そういう意味でも、日本ヒト脳機能マッピング学会で、近年の研究成果を、重要度の優先順位を十分に考慮に入れた上で、いくつかの方向性で内容を整理した学会誌の発行が望まれる。そんなことを考えながらHPの製作、編集をしている最中である。

2003年 9月1日 高橋 亮

編集長の補足―約10年間ぐらい、脳科学の最前線で研究している人たちと障害児を育てている人たちの間をつなぐことをやってきました。その具体的内容は創風社のホームページにのせたり、本を出して出版したりしています。この10年間で感じることは、新聞やテレビに出てくる脳科学に関することは、トピック的話題が中心で研究者全体の常識として確認されることとは距離があるということです。早期に何かをすれば頭がよくなるということはすぐジャーナリズムのトピックになりますが、同時にそれを否定する説(幼児期に脳の一部をくり返し訓練することは、脳全体の成長にはマイナス)もあるわけで、否定する方はトピックになりません。そういうなかで、真実が向かうことをいつも考えています。