四十五歳の女性。昨年秋、夕飯の支度中に突然意識がなくなりました。たまたま夫が近くにいたので救急車で病院に運んでもらえましたが、一分間ほど呼吸をしていなかったそうです。翌日、医師から「てんかん」だと告げられました。脳に何が起きたのですか。また、この年齢になって起きたのはなぜでしょうか。(東京・T)
問 てんかんはどんな病気ですか。
答 脳の神経細胞が異常に興奮するのがてんかんです。興奮する場所によって、手足が動いたり全身がけいれんして意識を失ったりします。脳波を測ると、通常は突発的な強い電気活動を示す波が検出されます。初めての発作は多くの場合、小さなお子さんに起こります。
問 なぜ子どもに多いのですか。
答 原因はよく分かっていませんが、子どもの方が脳の細胞が若くて興奮しやすく、ちょっとした刺激にも過剰に反応するからではないかと推測されます。例えば、発熱などがもとで子どもがひきつけを起こす「熱性けいれん一や、テレビのアニメ番組で子どもがけいれんを起こしたケースも、脳が刺激に反応しやすいのが原因の二つだと考えられます。
問 脳波の有無でてんかんかどうかがわかるのですか。
答 脳波は普通、頭に電極をいくつかつけて電気信号を測るので、頭の表面に出てきた電気しかとらえられません。頭がい骨の中まで電極を差し込んで調べると、脳の深い場所で信号が出ることがあるので、頭皮上の脳波だけで断定することはできません。
問 てんかんはどのように治療しますか。
答 脳の異常な興奮を抑える薬を飲みます。神経細胞の膜が興奮しないようにする薬や、興奮を抑える神経間の伝達物質を増やす薬などがあり、発作の状態によ,って使い分けるようにしています。数年以心にわたって薬を飲み続けると、多くの場合は発作が起きなくなります。
問 相談の方のように、.大人になっても起きることもあるのですね。
答 頭にけがをしていたり、子どものころに熱性けいれんを起こしていたりと.いった経験がなければ、成人が急にてんかんを起こすことは比較的まれです。脳に腫ようがある場合など、何らかの異常.が起きている可能性が否定できません。-てんかんや頭痛は、こうした異常のサインかも知れません。薬を飲むだけでなく、専門医に慎重に診断してもらうのがいいでしよう。
問 腫ようがあると、なぜてんかんが起こりうるのですか。
答 神経細胞そのものに腫ようがあると、直接発作につながることもあります。また、腫ようが周囲の神経細胞を圧迫したり、神経細胞への血流を妨げたりして、細胞の興奮を引き起こすこともあります。腫ようは良性であれば広がり方もゆっくりですが、悪性だと増殖のスピードが速いので、一刻も早く見つけて取り除く必要があります。
間 脳の様子はどのようにして調べますか。
答 磁気共鳴断層撮影(MRI)が効果的です。コンピューター断層撮影(CT)で見つからなくても、MRIで発見できることがあります。けいれんや頭痛などの問題があって受ける検査には保険が効きますから、費用もそれほどかかりません。
問 ふだん注意しなけれはいけないのはどんなことですか。
答 薬を使うと発作を抑えられるために、逆に脳内に異常が起きていても見過ごしてしまう恐れもあります。やはり、原因をはっきりさせることが大切です。診断の結果、特に異常が見つからず、薬を飲み続けることになっても、念のため、期間をおいて何度か検査を受けることをお勧めします。
けいれん発作と脳腫よう 東京女子医科人で一九九六-九九年に、十五歳以上の人が受けた脳腫ようの手術五百四十四例のうち、四十例で手術前にけいれん発作が見られ、四十四例では頭痛を感じていた。手術が最も多かった神経膠腫百二十五例では、十九例でけいれん発作があった。
朝日 2000年4月16日(日曜版)より。堀先生のてんかん外科についてもっと詳しく知りたい人は「てんかんの外科治療」「難治性てんかんの治療」(本・VTR)創風社を参考にして下さい。
写真はてんかん手術をする堀