てんかん発作で問題となる脳の部分は、通常終脳すなわち大脳半球です。
小脳は普通てんかん発作にはあまり関係ありません。
大脳半球は高次神経活動の座です。ヒトの大脳半球は左右相称で、溝・回に富んだ灰白質(大脳皮質)に表面を覆われます。その深部には白質(大脳髄質)と大脳基底核が存在します。左右大脳半球は正中裂で分かたれますが、中心部では脳梁が両半球を結んでいます。各半球は5部に分かたれ、それぞれを前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、島と呼びます。島はシルビウス外側溝の深部に埋もれて外面からは観察できません。また、これに加え、半球の内面で脳幹の上部を覆う前頭業、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の各葉の一部分をもって構成する辺縁葉を区別することもあります。ヒトの大脳半球には100億以上の細胞があるとされ、これらは部位.機能により異なる細胞構築をもって配列します。細胞体からの線維は白質を形成し他部位に達しますが、同一半球内で各部位を連絡するものを連合神経路、脳梁を主として対側の半球と連絡するものを交連神経路、内包を介して大脳半球以外の部位と連絡するものを投射神経路として区別しています。ヒトでは両半球は機能的には同等でなく、言語などの高次機能が優位半球に局在するなどの差異があります。優位半球は通常利き手の対側の半球であり、左半球であることが多いのです。
中心溝の前の部分は運動野、後の部分は体性感覚野ですが、両領野の中でさらに、身体の各部位を皮質上の異なった部位に反映しています。また特殊感覚も、嗅覚は海馬傍回、聴覚は横側頭回、視覚は鳥距溝周囲に中枢が局在しています。皮質上の運動野、感覚野(感覚領)以外の広い領域は連合野といい、脳の高次の統合機能に関連するとされています。辺縁葉marginal lobe〈Broca,1878〉とそれに関連する皮質下部の構造物からなる機能的単位。辺縁葉は大脳半球内面で脳幹を上方から包んでいる弓状の部分で原皮質(海馬,歯状回)、古皮質(嗅球,前有孔質,扁桃体)、中間皮質(帯状回)からなります。辺縁葉は動物の系統を通じて一様な構造を示す点が特徴的です。辺縁葉と連絡して大脳辺縁系を構成する皮質下部としては、扁桃体、透明中隔、視床下部、視床上部、視床前核などがあげられます。大脳辺縁系は新皮質とは異なった発生的由来と機能をもち、新皮質が高次の精神作用に関与するのに対し、大脳辺縁系は基本的な生命現象の維持・調節に関与します。大脳辺縁系は感情、本能、欲求に関与することから「情動脳」といわれます。また自律系の最上位中枢である視床下部と連格しこれを制御することで、呼吸、循環、吸収、排出などに関与することから「内臓脳」ともいわれます。さらに、大脳辺縁系は記憶に関連するとされ、また潜在意識の発現の座であるともされます。大脳皮質の限局した損傷によって失語症を呈する部位を言語中枢と呼びます。下前頭回の弁蓋部と三角部をブローカ運動性言語中枢Broca's motor speech centerと呼びます。C.Wernicke〈1874〉は左側上側頭回後部の損傷により感覚性失語症(言語聾)、J.J.DejerineとN.Vialet〈1893〉は左側頭頂葉角回の損傷により視覚性失語症〈言語盲〉が起こるとしました。それぞれの皮質領野をウェルニッケ感覚性言語中枢Wernicke's sensory speech center、視覚性言語中枢visual speech centerと呼びます。左側中前頭回後部を書字中枢*writing centerと呼ぶことがあります。言語中枢は右利きでは左半球にありますが、左利きの場合には右半球とは限らないといわれています。右半球に言語中枢があるのは利き腕とは関係なく2%の頻度という報告があります。また左側補足運動野の摘除によって数週間運動性失語症が起こるといわれています。
以上簡単に大脳の解剖を説明しました。
図1に大脳表面の機能局在を左に、半球間面の機能局在を右に示します。
てんかんの発作では、これらの機能局在に発作が起始・波及した場合にいろいろ特徴的な症状を示すのです。
これらの関係を図で示したのが図2です、脳の中には陰性運動野(Negative motor area;NMA)と呼ばれる場所があり、そこを刺激すると言語・手・足・舌などの動きが止まってしまいます。またそこに発作があると、発作中は言語停止・運動停止などの特徴的な症状が出る場所もあります。しかし、最近我々が脳腫瘍・皮質形成異常などに伴うてんかん患者さんの手術を行う際に、発作がいったいどこから始まっているのか?手術しててんかん焦点を含めて脳腫瘍や病変を摘出する場合に、その部位あるいはその周辺に機能的に重要な部分がありはしないかという恐れがある場合に、脳の硬膜下電極・深部電極を入れて機能マッピングを行うことがしばしばありますが、正常解剖とは異なった機能部位の変位が認められ、脳が可塑性に富んでいることが次々と判明しております。そこで、次回からは各脳葉ごとのてんかんの特徴を説明し、我々の症例でのマッピングの興味ある結果についてご紹介して参りたいと思います。