頭頂葉は脳の後半部を形成するが,前方は中心溝によって前頭葉と後方は頭頂後頭溝によって後頭葉とに分けられる。頭頂後頭溝は内側においては明らかであるが,外側においてははっきりとした境界は,脳溝としてはなしていない。後頭葉と側頭葉の間に,後頭前切痕というくぼみがあり,これと頭頂後頭溝の上限との間に線を想定し,後頭葉との境とされている。頭頂葉の機能を簡単にいうと,感覚の身体上の位置を判別する(局在の識別),話すことや聞くことに関すること,行為の遂行(服を着るとかタバコに火をつける,などの一連の動き),計算,左右の区別,地理的認識などに関連する働きをなすので,この部の障害ではこれらの機能の障害をきたすことになる。障害の原因としては,脳腫瘍,脳血管障害,外傷などが多い。
頭頂葉の構成は基本的に以下の3つにわけられる。
1 体性感覚野(3,1,2野)
2 頭頂葉連合野(5,7野)
3 頭頂葉下部(上縁回,角回39,40野)
体性感覚野は中心溝のすぐ後方にある。その後方は頭頂間溝によって,上下の部分にわけられ,上部が頭頂葉連合野で,その下が角回,上縁回よりなる頭頂葉下部である。
体性感覚野
ブロードマンの脳(細胞の構築によって,脳を約40に分類している。臨床ではもっともよく用いられている)では,3,1,2野に相当する。中心溝のすぐ後ろにあり,ペンフィールドの"知覚の侏儒"にしたがって分布している。この特定の部位には体の様々な領域に対応する場所が運動野のものと対応する形で配列されている。顔の領野は最も下側にあり,その上に手,腕,体幹,脚,足の感覚野が存在している。手,顔,および口に関与する皮質領野は不釣り合いに大きく,手の指,特に母指および示指に関する部がよく発達している。ほとんどが対側からの感覚路であるが,このうち口,咽頭喉頭部,直腸,生殖器は両側の刺激がくるとされている。
皮膚からの刺激は第3野へ、また関節や他の深部知覚は1,2野にいっている。一次感覚野の下方,頭頂葉弁蓋の島にむかう部分では,二次感覚野がある。二次感覚野は一次感覚野より小さく,皮質での順序は逆かあるいは一次感覚野で見られるものとは異なっている。感覚の伝導路について簡単に述べると,感覚は末梢神経の効果器から,知覚神経となり,脊髄にはいる。脊髄から,視床という部に行き,体性感覚野にはいる。知覚は,この視床に入った段階で意識にのぼるが,入ってきた知覚の判別,統合などは一次感覚野において行われる。嗅覚を唯一の例外として,すべての感覚路は視床の灰白質に終止し,視床皮質放線を通って大脳の特定の領域に投射されている。
一次感覚野の障害では,表在知覚の障害はあっても軽度であるが,からだのどこで知覚をうけたかなどの識別覚,深部知覚,運動がいちじるしく障害される。このような感覚障害を皮質性感覚障害というが,通常,触覚失認,身体部位失認,病態失認など種々の失認をともなう。また,後述する失語,失算,失行などと一緒に出現している。
頭頂葉連合野(5,7野)
5野では皮膚,筋肉,深部組織,特に関節からの刺激に反応する細胞が同定されている。空間における体の位置,運動に関する情報を統合,認識する働き,また7野は視野に関した運動を認識する働きがある。
頭頂葉下部(上縁回,角回)
上縁回と角回とからなる。この部分はヒトでもっとも発達している。左右で出現する症状に違いがあるが,この部位の障害には多くの症状が記載されており,主なものにとどめるが,いずれにしてもこの部の障害は,言語や行為の遂行,空間的認識などに重篤な障害をきたす。
左の脳障害としては,失語,主に伝導失語(繰り替えして云うことができない),健忘失語(言葉を忘れてしまう),また,身体部位の失認(指が何指かわからない,手の位置を適切に言えない),などといった症状がある。有名な症状がGerstmann症侯群である。手指失認,左右障害,失書,失算の4徴侯である。また,失読,失書,さらに運動失行(麻痺は認めないが,運動を遂行することができない)などの出現をみることもある。失行(麻痺は認めないが一連の運動ができない)は多くは,優位半球障害(右利きの人は左,左利きの人もほとんど左が優位半球である)でおきる。これにたいして,半側病態失認,また着衣失行,地誌的記憶障害などは,劣位半球である右の障害で生じる。地誌的障害とは,よく知った場所でも見当をうしなったり,記憶をうしなうことであり,右の頭頂葉の症状とされる。
識別性触覚について述べる。これは,頭頂葉の機能を理解する上で重用である。この感覚は温覚,痛覚とは解剖学的に異なる経路で大脳へ連絡される。検査方法であるが,被検者に目を閉じさせて,皮膚に文字や数字を書いて当てさせる方法,また,2点識別覚といって,2点を同時に刺激し,2点と感じる距離を測定したりする。また,体の異なった部位を左右対症的に同時に刺激し,一方のみを感じ,他方を感じないという現象があるが,これを知覚の消去現象といって,知覚の消失している側に対応する頭頂葉の障害を疑う。このように位置覚,識別性知覚,立体覚の障害のみ認められ,痛覚ならびに温覚の障害はわずかに障害,あるいは正常のままであるような場合,大脳皮質知覚症侯群という。やはり,脳腫瘍に多く,また脳卒中の後遺症患者にも多く認められる。また,原因は不明であるが,上下肢の筋萎縮が認められることもあり,頭頂葉病変とされる。
以上,頭頂葉の機能は重要で外部の刺激を受け評価し,言語による表現,行動を司る部位であり,この部位の障害はしばしば重篤な障害をきたすものである。