平沢研一、林 基弘、山根文孝、堀 智勝 はじめに 日本全国においててんかん患者は120万人に達し、うち難治性は成人例で25%、小児例で13%、全体で17% (20万人)である。これらの中で、側頭葉てんかんは、手術治療の最もよい適応の一つと考えられている。以下に側頭葉てんかんを概説し、我々の取り組みについて述べる。 診断 発作:まず、上腹部のこみ上げるような不快感、異次元にいるような感じ、ものが大きく見えたり、小さく見えたりする、恐怖感やいやな臭い、既視感などの前兆から始まり、意識が混濁する。この際、動作を停止し、虚空を凝視することが多い。さらに典型的には舌なめずりや、手でものをいじる、部屋の中を歩き回る、といったいろいろなタイプの自動症がみられる。一回の発作が1分程度と長いことが多く、また、発作後も意識混濁が数分間続くことが特徴的である。
図1:左扁桃体より始まり、約30秒後に対側に波及した。頭皮上脳波は右からの起始を示したが、対側に波及後に初めて頭皮上にあらわれたためと考えられた。 脳波双極子追跡法 (EEG-DT):頭皮上脳波を用いてspikeの焦点をより厳格に求めるモデルとして開発された。各層の伝導率の違いを考慮し、多くは頭皮、頭蓋骨、脳の三層モデルを用いるが(1)、ここに髄液を加えた四層モデルも開発されている。MEGと比べ安価であること、側頭葉てんかんなど深部の焦点を検索するのに有効であると言われている。今後の発展が期待される分野である。(図2)
図2:同一症例の発作間欠期の棘波について双極子追跡法を施行。左扁桃体・海馬およびそれにつながる形で左前頭葉底面に双極子が推定された。(昭和大学第二生理学教室本間生男教授による) 脳磁図(MEG):脳の電気活動により発生する磁気をとらえることによりてんかん焦点を推定する。透磁率が各層によって変わらないことにより、計算モデルが平易で精度が高いと考えられている。その一方、脳表に垂直な双極子をとらえることができないこと、磁気は距離に応じ急速に減衰するため、深部の検索が苦手とされていること、さらに装置および維持費が高額であること、等が弱点といえる。 図3:病理所見で左の海馬硬化と診断された症例。FLAIR画像で左海馬に高信号を認める。 図4:図1と同一症例のvolumetry画面。扁桃体・海馬はそれぞれ左1.6ml, 1.7ml, 右2.4ml, 3.9mlであり左側の著明な萎縮を認める。 SPECT, PET:Newtonらは側頭葉てんかんの焦点と発作間欠期のSPECTとが一致した割合は48%、発作時SPECTとでは97%に及ぶと報告した(3)。PETではより高く、70〜80%で一致するとされている(図5)。近年は、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬のflumazenilを用いたSPECT, PETが実用化されつつあり、より正確な診断が期待されている(4)。
図5:図1と同一症例。FDG-PETにて左内側側頭葉に代謝低下域を認める。 ]脳血管撮影:手術に必要な血管走行についての情報を得る目的の他にWada testによる優位半球の決定を行う。
図6:図1と同一症例。頭蓋内電極留置後のX-P。 側頭葉てんかんに対する手術および放射線治療 選択的扁桃体海馬摘出術:患側側頭葉を広汎に切除する側頭葉切除術が現在も広く行われているが、Yasargilらが1982年にtranssylvian approachによる選択的扁桃体海馬摘出術による良好な手術成績につき報告し(6)、以後このYasargilの方法が「選択的」手術の標準的な術式と考えられている。しかし、Yasargilらの術式では切除範囲は小さいものの、temporal stemにおいて繊維連絡を切断することとなり、結果として切除範囲より広範な側頭葉の機能障害を来す可能性があり、また上方より到達するため、側脳室下角上面を走行する視放線を傷害し1/4盲を生じることが多い(7)。また、扁桃体の皮質内側核や鉤を十分切除するためには熟練を要するが、切除が不十分であれば症状が再発する可能性もあることが指摘されているなど(8)、必ずしも広く行われるに至っていない。そこで1993年にHoriらは海馬に最短距離で到達し、かつ脳損傷が最小と思われる側頭下扁桃体海馬摘出術を報告し(9)(図7)、その後も症例を重ね、1999年に連続16例について臨床成績も他の術式に劣らないことを示した(10)。我々はこの方法にのっとり手術を行い、良好な成績を上げている。手術の実際と術後MRIを供覧する(図8,9,10)。
図7:側頭下アプローチによる選択的扁桃体海馬摘出術のシェーマ。collateral sulcus に到達後、上方に向かい、下角にはいる。 図8:側脳室下角に達し、扁桃体と海馬頭部を観察する。星印はchoroidal point、HHは海馬頭部を示す。 図9:扁桃体海馬を摘出後の術野。前脈絡叢動脈や脳底静脈が観察される。 図10:図1と同一症例の術後MRI。扁桃体・海馬が選択的に摘出されており、周囲組織に損傷はみられない。 ガンマナイフ:ガンマナイフは1968年、Leksellらにより開発された。現在脳腫瘍、脳動静脈奇形を中心に広く用いられている。これまで、腫瘍等に付随したてんかんについて、ガンマナイフの良好な結果が知られてきたが、最近、non-lesionalな内側側頭葉てんかんにも応用され始めた。現在フランスのラ・ティモンヌ大学をはじめとして、頭蓋内電極を用いた厳密な適応の検討の後に臨床応用されており、手術治療に劣らない、短期および中期にわたる良好な結果が示されている。一方、radiation induced edemaを高率に合併するなど、安易な使用は慎まねばならない(11)。 文献リスト Homma S, Musha T, et al. Location of electric current sources in the human brain estimated by the dipole tracing method of the scalp-skull-brain (SSB) head model. Electroencephalogr Clin Neurophysiol Nov;91(5):374-82, 1994 |