「痛みと痙縮に対する後根進入部遮断術」 5.代表的症例
(2)38歳,男性(症例2)。右syringomyeliaによると思われる痛みがあった。右C5-T2のMDTを施行した。術後痛みは2/10,しびれあり,反対側上肢に軽い痛みが出現した。 (3)57歳,男性(症例3)。直腸癌の転移。両側L2-S5のMDTを施行した。術後両下肢痛み消失,左下肢痙縮消失,腹痛,麻痺性イレウスが悪化,肺炎となり,3ヵ月後に死亡した。 (4)28歳,男性(症例4)。外傷に起因すると思われる,reflex sympathetic dystrophyによる左上肢C5-T1の痛み。術後C4,1/2…T2,1/2までのMDTを行い,allodynia消失,痛みは1-2/10,RSDによると考えられる筋萎縮があったが約半年で完全に正常になった。この患者では左下肢のRSDもありleft L3-S2のMDTを行ったところ,術前見られた発赤・腫脹は著明に減少し,痛みも消失した。当初約60%の効果と言っていたが,徐々に軽快傾向にあり,退院後外国旅行が可能となった。しかし,骨萎縮などのRSDの症状は進行しており,この病気の深刻な病態はMDTでも不変である。 (5)54歳,男性(症例5)。右syringomyeliaによると思われる痛みがあった。右C6-T4のMDTを施行した。術後痛み完全消失,T1に軽いしびれあり。図8左上は空洞を示すT2WIMRI axial像,図8左下は術中にくも膜嚢胞が示されている。中の二つのMRIは空洞(左),くも膜嚢胞(右)を示す矢状断T2WIMRI。図8右上は空洞部が解放されたところ。図8右下はDREZの病変を示すT2強調MRIaxia1像でくさび型の病変が認められる。 (6)59歳,男性(症例6)。直腸癌による腰仙部の痛み。bilateral L1-S5 MDT。下肢の痛みは消失,会陰部は2/10,右下肢深部知覚障害出現。この症例での術前,術後の痛みの状態を図9(術前,術後)に示す。その後患者を送って下さった外科へ移ったが,リハビリを行い,歩行が可能となった。 (7)59歳,男性(症例7)。Pancoast型の肺癌による右上肢の痛みあり。右C5-T1のMDTを行う。痛みはDREZ領域で消失,術前からの正中神経麻痺がやや悪化? (8)68歳,男性(症例8)。腰部の手術後の痛み(failed back)。leftS1-S3MDT。痛みは完全消失,しかし反対側の臀部に同様の痛みが出現。 (9)57歳,男性(症例9)。直腸癌による腰仙部の痛み。bilateralL-SMDT。痛みは2/10となる。両下肢のしびれはあるが,歩行は障害されていない。 (10)53歳,男性(症例18)。平成10年8月作業中にはずれたパレットを無理に左手で支え,牽引され,10日位後より左頚部痛と左上肢のしびれが出現。これまでに硬膜外ブロック,神経根ブロック,脊髄刺激などを行ったが効果は一時的であった。現在MSコンチン(30mg)3T/d服用している。疼痛ならびに感覚異常領域は左C3-T3であった。 .合併症 22症例で一過性の感覚異常(dysesthesia)4例,麻痺性イレウス2例,軽度の下肢筋力低下2例,上肢筋低下1例,排尿困難1例を認めた。また長期障害とて,手術前にみられなかった疼痛1例,異常知覚(下肢の熱感など)2例,筋緊張低下1例(家族性脊髄性筋張元進症)などがみられている4)。 「痛みと痙縮に対する後根進入部遮断術」『神経研究の進歩』第45巻 第4号 2001年8月10日 発行より引用。
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