側頭葉外てんかん


山根文孝、平澤研一、堀 智勝

Key Words: てんかんの外科治療、Epilepsia Partialis Continua、脳マッピング

【はじめに】

難治性てんかんとは、「現在用いる事ができる全ての抗てんかん剤を、耐え得る最大限の投与量まで単独および併用で使用しても、発作の改善が達成できないてんかん」と定義される。このような難治性てんかんのなかで、外科治療が奏功する症例がある。特に、側頭葉内側部にてんかんの原因となる病変が存在するような側頭葉てんかんは、外科治療のもっともよい適応である。これにたいして、前頭葉、頭頂葉、後頭葉にてんかんの原因となる病変がある症例も存在する。このような側頭葉外てんかんの症例にたいしての外科治療は側頭葉てんかんほどよい成績は得られていないが、症例によっては、外科治療が有効である1)。

今回は側頭葉外てんかんとして、左下肢に繰り返しけいれんを認める部分持続てんかん (Epilepsia Partialis Continua: EPC)の症例を供覧するとともに、てんかん外科治療の基本的考え方について述べる1)。部分持続てんかんとは、体の一部が数日から数週間にわたって持続的にけいれんをくりかえすてんかん発作の一型である。これにはさまざまな原因があるが、詳細については文献を参照されたい2)3)4)。


【症例】

12歳女児

既往歴:正期産正常分娩で幼小時においては特記すべきことはなく、また熱性けいれんの既往もない。

現病歴: 10歳のころから、睡眠中に全身性のけいれんが出現。近医にて精査
の結果てんかんと診断されバルプロン酸の投与が開始された。CT、MRIにて右頭頂部に異常を指摘された。その後、時に全身性けいれんを認めるものの、発作は次第に左の下肢に限局して出現するようにった。その、持続は5分から10分、一日に200回以上出現するようになった。カルバマゼピン、フェニトイン、ゾニサミドなど投与されたが、無効。

 薬物治療には限界があると判断され、鳥取大学脳神経外科へ紹介された。同付属病院にて硬膜下電極による脳マッピング5)が施行された。その結果、発作の原因となる病変はちょうど下肢の一次運動野に存在することが判明した。病変の摘出により左下肢の麻痺を来すことになるので、同部には、軟膜下皮質多切除術6)を行い、頭頂葉を中心に一次運動野ぎりぎりまで摘出した。摘出した病変の病理組織学的結果は皮質形成異常(cortical dysplasia CD)6)であった。

 術後発作回数は減少し、15〜30秒の左下肢の痙攀が一日15ないし20回となった。しかし、一週間後左下肢のけいれんは再発。その後、次第にその頻度は増加した。発作の薬物療法によるコントロールを目的にてんかんセンターである国立静岡東病院にて入院。薬物治療により発作頻度の若干の減少を認めたが、発作のコントロールは不可能であった。MEGにて外側頭頂葉に棘波双極子の集積が認められた。

 発作の回数は一日数100回におよび、左下肢の筋力低下を来し、また歩行にも差し支えるようになった。薬物治療に抵抗性であること、また左下肢の麻痺を認めるようになったことなどから、再度、外科的治療を目的に当院にて入院した。


神経学的所見)意識清明、左下肢の筋力低下、下腿を中心に筋萎縮あり。その他の四肢に異常ない。神経心理学的検査にてはPIQ、VIQ共に低下。

発作型)左下肢、足関節を中心に一日100回以上の足のけいれんを認める。持続は数10秒以下。

脳波)右頭頂葉CZおよびC4を中心に棘波を認めた。

画像)入院時MRIを示す。(図1)


図1 A)~D)入院時MRI、T1強調画像。右頭頂葉の内側部が切除されており足の一次運動野は温存されている。E),F) それぞれ左手右手の感覚刺激による機能的MRI(fMRI)。左下肢のfMRIはタスクの負荷ができず施行不能であった

硬膜下電極によるマッピンング)マッピングの結果を示す。感覚誘発電位によって同定された中心溝の位置とマッピンングにより同定された位置とが異なっている。(図2,3)

図2 慢性硬膜下電極埋め込み術後の頭蓋骨単純写真。運動野およびてんかん原性領域をおおうようにして電極を留置。

図3 慢性硬膜下電極埋め込み術後の頭蓋骨単純写真。運動野およびてんかん原性領域をおおうようにして電極を留置

手術適応)今回の場合、左下肢の運動麻痺が出現しつつあり、かつ発作がまったくコントロールされていない。発作の焦点は足の一次運動野とその前方の補足運動野に存在しているので、発作の消失の為には同部を切除する必要がある。

その結果、左下肢の麻痺というハンディキャップを背負うことになるが、患者が若年であり、リハビリテーションによってかなり改善が期待できること、また、運動麻痺については一時的に弛緩性であるが、痙縮が出てくれば歩行可能になりうることなどの理由により、その部位を切除するのが適当と判断した。

手術)全身麻酔下腹臥位として、頭部をやや挙上した。足の一次運動野およびその前方の補足運動野を摘出。摘出後の皮質脳波において棘波が手の一次運動野および頭頂葉にも認められ、棘波の出現する部位には軟膜下皮質多切除術を行った。(図4,5,6、7)


図4 手術写真。A)摘出前。術中マッピングの結果も慢性硬膜下電極の結果と一致した。赤が運動野で黄色が感覚野、白色が棘波の多発する領域を示す。B)摘出後。下肢の一次運動野および補足運動野を摘出、その他の運動・感覚野には軟膜下皮質多切除術を施行。

図5 摘出術後のMRI、T1強調画像。下肢の一次運動野および補足運動野にプラスし頭頂葉の一部が摘出されている。

図6 A)術前MRIおよび摘出部位を示す。B)摘出術後のMRIのsurface rendering画像

図7 摘出された標本。組織はやはりcortical dysplasiaであった。


術後経過)術後発作は完全に消失。心配された下肢の麻痺については出現することはなく、術前と同じ程度の運動麻痺を認めるのみ。しかし、左上肢の運動麻痺が一時的に出現した。しかしこれも術後2週間程度で快復。現在、患者は独歩可能であり、復学を果たしている。下肢に運動麻痺を認めず、上肢に運動麻痺を認めた理由は不明であるが、一次運動野になんらかの機能的再配列が生じていた可能性は否定できない。


【まとめ】

てんかんの外科治療の適応の第一条件としては、難治性てんかんであり、すくなくとも適当な薬物治療が2年以上行われているにもかかわらず、発作の軽減がえられない症例であることである1)。
外科的治療を行う場合、まず、ビデオモニターを用い脳波と同時に記録し発作型を正確に把握することから始める。すなわち、発作と脳波異常の対応をビデオを用いて調べる。次に、脳内の病変の有無を調べるために、CT、MRIといった画像診断を行う。発作焦点においては非発作時に脳循環代謝が低下し、発作時には亢進するというのが一般的である。そこで脳血流をしらべるための検査として、SPECT (Single Photon Emission Computed Tomography) を、またグルコース代謝を調べるためにPET (Positron Emission Tomographhy)を行う。双極子追跡法 (Dipole tracing: DT) にて脳波上の棘波が出現する部位を脳内に同定する。

このようにして同定された部位で、かつその摘出によって発作の消失が期待される部位をてんかん原性焦点という。

次のステップとして、てんかん原性焦点が摘出可能かどうかを調べる。現在のところもっとも正確なのが、硬膜下電極による脳マッピング5)である。今回の症例のように、てんかん原性焦点が機能部位に存在することはめずらしいことではない。この場合切除はできず、かわりに軟膜下皮質多切除術6)を行う。

これは、脳皮質に‘すじ’をつけることでその部位の機能の温存をはかりつつ、発作の伝播を防止するという手術である。

【文献】

1) 堀 智勝: てんかんの外科治療 創風社 1994

2) Juul-Jensen P, Denny-Brown D. Epilepsia partialis continua. Arch Neurol 15:563-568, 1966

3) Obeso JA, Rothwell JC, Marsden CD. The spectrum of cortical myoclonus:

from focal reflex jerks to spontaneous motor epilepsy. Brain 108:193-224,1985

4) Cockerell OC, Rothwell J, Tompson PD, Marsden CD, Shorvon SD. Clinical and physiological features of epilepsia partialis continua. Cases ascertained in the UK. Brain 119:393-407, 1996

5) 堀 智勝、平澤研一、山根文孝: 脳手術のための機能マッピングの現況(2) 臨床脳波42:594-604, 2000

6) Morrell F, Whisler WW, Blerk TP. Multiple subpial transection: A newApproach to the surgical treatment of focal epilepsy. J Neurosurg 70:231-239,1989