本書の主要な特徴を箇条書きにすると,以下の如くであろう。
1 日仏両国の研究チームが共通調査表を用いて行った両国自動車産業についての初めての実態調査,しかも組立メーカーから部品供給/下請企業までを含む最も包括的な実態調査を基礎とする本格的な日仏自動車産業比較であること,2 フランス自動車産業の立脚原理をテイラー/フォード主義〔時間・動作研究による科学的労働組織,労働の細分化,熟練の解体,不熟練労働による規格製品の連続大量(見込)生産による規模の経済〕とその部分的修正であるスローン主義〔標準化,部品の共通化を基礎としてのフルライン・ポリシィとモデルチェンジによる多様化,差別化の追求〕による労働生産性の上昇と労働の強度化による成果を労働者階級に還元しての大量消費と規定する。これは1920年代以後のアメリカの高度成長と第2次世界大戦後の世界資本主義経済の高度成長を規定した原理である。3その米仏自動車産業を脅やかしている日本自動車産業にはトヨタ主義というコンセプト上の革新があるのでほないか,と考える。すなわち,規格品の大量生産〔による商品の低廉化〕でほなくて,部品の標準化,共通化によって規模の経済を追求しつつ,コンピュータを駆使して多様な消費者需要に即応する〔注文生産と大量生産の結合〕多品種変量生産〔個性ある商品の安価な生産〕コンセプト〔この極致が混流生産〕の勝利である。
・・・・・・・・(監訳者あとがき より)
目 次
序 論
出発点:フランス自動車産業の危機,日本の挑戦と近代化の問題点
多元的過程としての近代化
日本との比較の方法と困難
研究の展開
第1章 フランスと日本の自動車システム:フレーミングの諸要素
1.1 世界的な状況のなかでのフランスと日本の自動車産業
1.1.1 自動車製造
1.1.2 自動車の部品・備品工業
1.2 歴史の比較描写――1945〜1987年
1.2.1 日本の自動車産業の発展
1.2.2 フランスの自動車産業
1.3 国際化
1.3.1 自動車メーカーの国際化の諸段階
1.3.2 部品と構成部品供給業者の国際化
1.4 非常に異なった構造を持つ自動車システム:日本式のピラミッドか「太陽系」,あるいほフランス式分裂モデルか?
1.4.1 「現実」:フランスの複占と分裂,日本の寡占と集中
1.4.2 「形式」:ピラミッドと分裂した原子
1.4.3 グループの上部構造?
1.4.4 日本の「太陽系」
結 論
第2章 資材調達関係
2.1 統合と生産性
2.1.1 物理的指標
2.1.2 会計的尺度
2.2 方法上の2つの問題
2.2.1 理論と実際
2.2.2 企業の諸範疇
2.3 メーカーの購入基準
2.3.1 日本の状況
2.3.2 フランスの状況
2.4 実際上の諸関係:形式的支配VS実質的支配
2.4.1 実質的な後見人からフランス風パートナー的支配へ
2.4.2 日本すなわち形式的な統合の技法:協力会
2.4.3 収斂は可能か?
2.5 供給業者/下請業者の諸戦略
2.5.1 背景
2.5.2 日本における供給業者/下請業者の発展
2.5.3 フランスにおける供給業者/下請業者の発展
結 論
第3章 科学技術のダイナミズムとその焦点
3.1 統計による第1次接近
3.1.1 研究開発努力の比較
3.1.2 特許登録
3.2 技術開発の歴史的基礎
3.2.1 第1次石油危幾までの多様な発展
3.2.2 第1次石油危機以降の戦略的目標の収斂
3.3 メーカー・1次供給業者の科学技術活用戦略の比較
3.3.1 企業内部での活用戦略
3.3.2 研究開発の組織:日本のヨリ適合的な構造
3.4 システム総体内部における技術活用のダイナミズム
3.4.1 技術的分業
3.4.2 「ピラミッド型」の技術活用と「企業別」技術活用
結 論
第4草 生産を組織し管理すること
4.1 規格化からフレキシブル化へ:問題視されるテイラー=フォード主義
4.1.1 フランス:「フォード型モデル」の懐妊と「アメリカの夢」
4.1.2 日本:もうひとつの生産のロジック
4.2 組織化の歩み:ジャストインタイム生産
4.2.1 生産組織の合理化
4.2.2 供給業者との関係の合理化
4.3 フランスと日本:組織と生産管理の実践例
4.3.1 日本型組織の調書
4.3.2 フランス人が組織に目覚めるとき
4.4 グローバルな管理に向かって
4.4.1 情報化とJIT
4.4.2 生産の統合と自動化
結 論
第5章 トヨタ主義と日本主義
5.1 文化と経済を結びつける議論の検討
5.1.1 国民文化とマネージメント:経験に基づく試論
5.1.2 企業文化とアクターの役割:批判的議論の深化
5.1.3 文化と経済を関連づける説明方法:一般化の試み
5.2 合理性,文化,歴史
5.2.1 トヨタ主義における原則と手段の区別
5.2.2 「トヨタ主義の誕生」すなわち経済合理性と国民文化の歴史的合流
5.3 緊密な関係のもとに発展するシステムとしての生産組織,企業組織,労働組織
5.3.1 企業組織における公理化対形式主義
5.3.2 生産は企業のその他の主要機能と多かれ少なかれ組織的な関係をもって行われる
5.3.3 本来の生産部面でのシナジー効果
5.3.4 生産組織及び企業組織の「一環」としての労働組織
5.3.5 開発管理の問題:改良と革新
5.4 経済合理原則の実現における文化の役割再論
5.4.1 空間,時間,物質と生産管理
5.4.2 集団の構造化,部分と全体の接合,組織
5.4.3 日本とフランスのパラダイム:比較の文化的諸要素
5.4.4 組織や管理は収斂するのか?:文化からみた今後の帰趨
結 論
第6章 技能資格の形成と職業教育の方法
6.1 労働の準備と仕事場:技能資格の新空間の最初の測定
6.1.1 計画における労働者の力量のなお限定された拡張
6.1.2 計画の修正:日本では労働者の能力はより大きい
6.1.3 フランスと日本の情勢の比較
6.2 技能資格の拡張された構成と協力の形態
6.2.1 生産と品質の管理:根本的な相違
6.2.2 フランスと日本における保守管理の考慮は,根本的に異なった論理に従う
6.2.3 技術変化への賃金生活者の参加
6.3 日本の雇用システム,生産システムと統合された職業教育の慣行
6.3.1 日本企業の職業教育の努力の評価
6.3.2 新入社時の職業教育
6.3.3 職務歴任制度と人事移動
6.3.4 発注者/下請業者関係の創造的教育的側面
6.4 技術的変化と職業教育ほフランスでも日本でも進行中である
6.4.1 研修/社内での再教育
6.4.2 使用研修
6.4.3 外部機構または専門介入者への依存
6.4.4 投資の設計/実現への参加
結 論
第7章 雇用と賃金のシステムの転換
7.1 日本の雇用システムの「3つの支柱」
7.1.1 終身雇用のシステム
7.1.2 「昇進システム」
7.1.3 企業別取合
7.2 労働量と雇用量の弾力性:狭いパートナー関係と包括的パートナー関係
7.2.1フランスにおける適合の諸様式:発注者と下請業者の「暗黙の」分業
7.2.2 日本における適合の諸様式:発注者によって「組織された」弾力性の連続体
7.3 二重構造と日本の雇用システムの衰弱
7.3.1 マイクロ・エレクトロニクスの発展と二重構造の強化
7.3.2 終身雇用システムの混乱
7.4 賃金システムの外見的収斂
7.4.1 自動化に直面しての日本の賃金システム
7.4.2 フランス方式の「賃金=部署」はその分離に向かっているのか?
7.4.3 賃金の個別化と「能力主義」
7.4.4 傾向的変化はどのようなものか
結 論
結 論
1 自動車産業とグローバルな生産システム:いかなる代表性か?
2 フランスと日本における近代化の比較:有効な分野は何か?
3 産業構造,技術的組織的変化,労働関係:近代化の核心である組織の統御と全体の整合性
4 フランスと日本の自動車システムと一般的な産業システム:近代化の制約,可能性と進路
参考文献
巻末略語
監訳者あとがき
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