稲葉 三千男(東久留米市長.東京大学名誉教授)

ド・レフュス事件とエミール・ゾラ
−1897年−

フランス陸軍参謀本部のユダヤ人アルフレッド・ドレフュス大尉が、ドイツのスパイ容疑で逮 捕され、有罪判決を受けた。その彼の無罪が確定したのは、12年後の1906年7月である。今なぜドレフュス事件なのか。そして文豪エミール・ゾラはなぜドレフュスの無罪のために闘ったのか。

 ゾラの妻 先ほどの若い方は、どんなご用でいらしたの?
 ゾラ ベルナール=ラザールといって、以前には私のことを酷評していた文芸評論家だがね。3年前にドイツ軍のスパイとして逮捕され、軍法会議で有罪になったユダヤ人将校アルフレッド  ・ドレフュスが、じつは無実だというんだ。それを自分は、筆跡鑑定の専門家たちの協力で証明したから、この著述を読んでほしいといって置いていったよ。ぜひ世論に訴えてほしいってね。
 妻  それで、どうなさるおつもり? やっぱり一肌お脱ぎになるの?
 ゾラ いやぁ、面倒な気がするね。次の小説にとりかかりたいしね。
 妻  でも、先だって「ユダヤ人のために」をお書きになったあなたですもの。ユダヤ人のドレフュス大尉が無実だとしたら、ドレフュスのために黙ってはいられないでしょう。
 ゾラでもねぇ、さっきの青年の話を聞いても、どうもスッキリしない。元大尉の家族は金満家だそうで、金の力で大尉を流刑地から救出しようとしている、という噂もあるしねぇ。もっと  正々堂々とやればいいのに。もちろん軍法会議はウサン臭いよ。とくに筆跡鑑定はいい加減だったようだね。(本文より)

   目    次
 謀殺か、事故死か
 当時の社会事情(1)――内外の政治危機
 参戦まで
 初陣の朝
 参戦の理由
 第 二 弾
 幕間劇――バルザック晩餐会
 告発者の視線で
 当時の社会事情(2)――反ユダヤ主義
 独立独歩の立場で
 あとがき

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