長島隆(日本医科大学講師) 編 物象化と近代主体 46判 上製 本体1900円 [品切れ] |
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・・・・・・われわれをして空白感をいだかせる、この「豊かな社会」とはなにか、六〇年代の高度経済成長とその後につづく日本社会の変動をうながしてきた後期資本主義化と高度産業化が、社会の物象化と、市民社会をになうべき近代主体の未成熟と早ばやの分裂を促進してきたのではないか、そして、主体と自然、主体と美学、主体と他者、の近代的関係ほどのように構成され、いま変容をせまられているのか、ということに執筆者の共通のおもいがあった。 一般市民の生活から離れず、哲学とは批判の精神である、を信条とする石関敬三のもとで学んだことの ある執筆者それぞれほ、この現代的課題を解くために、近代哲学史をさかのぼって測深器の鉛をおろし、そこから、これらの錯綜した関係と変容を批判的に探ろう、とこころみた。(「あとがき」より) I ポスト・モダンにおける時間――空間論 永井 務 ――物象化と分裂症・鬱病症―― はじめに――歴史の終焉と近代の終焉(ポスト・モダン) 一 近代主体――近代科学をめぐって 1 近代主体と近代科学 2 近代主体と近代科学主義への懸念 3 「工作人」の崩壊と脱資本蓄積 二 近代主体と時間――空間論および「物象化」 1 主体と時間――空間論 2 マルクスの視座のもとでの近代主体と時間――空間論 3 ルカーチの視座のもとでの時間――空間論 三 時間――空間の物象化と「分裂症」・「鬱病症」 1 ミンコフスキーの視座のもとでの時間――空間論および精神障害 2 ガベルの視座のもとでの時間――空間論および物象化と分裂症 3 木村の視座のもとでの時間――空間論と分裂症と鬱病症 四 ポスト・モダン時間――空間における主体 1 哲学的現象学における時間――空間 2 脱構造主義における時間――空間論 II 労働とエロスとのあいだ 清 眞 人(近畿大学) ――マルクーゼの実存的思考の軌跡をたどりながら―― 一 エロス的実存の概念とサルトル批判 二 初期マルクーゼにおける実存概念としての〈労働〉 三 労働とその他者――遊戯 四 主体の帝国主義? 五 美的次元 III 物象化論の哲学的基礎づけ 福山 隆夫 ――ルカーチの近代哲学批判について―― 一 はじめに――視点と方法 二 認識論 1 対象の産出 2 近代合理主義の普遍性要求 3 カントの体系における「物自体」の意味 4 アドルノの挫折 三 実践哲学――内部への道 1 カントー形式主義の行方 2 ルカーチによる「存在の段階説」の提起 3 近代的個人主体の運命――静観性 4 エンゲルス批判 四 判断力――美的調和 1 人間観の分裂と調和 2 自然概念の展開 3 美的ユートピズム批判 五 歴史 1 人間――産出者の主体 2 弁証法――発展する内容の論理学 六 おわりに IV 近代的自我と絶対者 長島 隆 ――フィヒテとシェリング、あるいはシェリング自然哲学の理論的前提―― 一 フィヒテ的自我と先験哲学 二 シェリングのフィヒテ受容と自然哲学の端緒 三 絶対者と個体性のプロブレマーティク――同一性体系における絶対的同一性と有限者―― V 近代的個人の存立根拠 北澤 恒人(千葉大学非常勤講師) ――シェリング『自由論』における光と闇の原理―― 一 はじめに 二 『自由論』における光と闇の原理 三 光と重さ――自然哲学における有限者の問題 四 同一性哲学における自由と有限者の問題 五 主知主義から主意主義へ――歴史性と自由 六 おわりに VI 近代的主観性のアポリア 日暮 雅夫(日本学術振興会特別研究員) ――へーゲル『精神現象学』におけるカント道徳哲学の問題―― 一 『現象学』における「道徳性」の持つ問題構成 二 「実践理性の自律」の批判 1 「理性の自律」における抽象的性格 2 「理性の自律」における形式主義的性格 3 へーゲルの「自律」批判の解明 三 「純粋実践理性の要請」の批判 四 「良心」の相互承認における「道徳性」の克服 VII 近代的自我と社会倫理思想 仲島陽一(学習院大学非常勤講師) ――パスカルをめぐって―― 一 パスカルの社会思想 二 社会思想と倫理思想 三 「纂奪」をめぐって 四 宗教と社会 五 パスカルと歴史 六 倫理と社会――結びにかえて VIII 現代における哲学の課題 石関 敬三(早稲田大学名誉教授) 一 哲学は現実を超越してはいけない 二 現実は存在でも無でもなく生成である 三 哲学は現実を課題とすべきである 四 哲学は「汝自身を知れ」から始まる 五 近代市民社会は過去の問題ではない 六 哲学即形而上学ではない 七 哲学は永い視野で批判的に現実を視る あとがき、 永井 務 |