高橋満・槇石多希子 編著
ジェンダーと成人教育

46判 上製 360P 本体2400円 

 本書の構成は以下のようである。
 第I部では、「女性問題学習」研究を再検討するとともに、エンパワーメントなど多様な領域で使われる基礎概念を批判的に読み解く。第一章では、日本の「女性問題学習」そして1・メジローの「変容理論」を批判的に検討しながら、行動する女性を対象にすえた研究の課題を提示する。第二章では、社会的シティズンシップとエージェンシーとしての女性との関連を明らかにし、実践のコミュニティにおける学びの方法を理論的に整理する。第三章では、女性の教育に関わる中心的な概念の一つであるエンパワーメントの両義性を指摘し、パワーの視点からの研究の必要性を確認する。
 第II部は、事例研究をベースにしつつ、女性をめぐる労働とケアワークそして学びとの関連について追究する。第四章は、企業における女性差別の構造と実態を明らかにし、この差別への気づきの過程と裁判闘争への参加をめぐるパワーとエンパワーメントの問題をとりあげる。第五章は、労働する女性のネットワーク型の学びの可能性を大阪北区の女性の会を事例にとりあげる。第六章は、性差別賃金裁判に立ちあがった女性たちのライフヒストリーをとおして、彼女たちが働きつづけるなかでどのような意識や価値観を培い、いかに学習しつつ「異議申し立て」の行動にいたったかを明らかにする。第七草は、生活協同組合を事例としてとりあげる。協同組合は民主主義を組織原理とし、協同にもとづく新しい社会をつくる実践としてもとらえられるが、同時に、ジェンダー関係を前提とした運動体として批判的に検討される。第八草では、新しい労働の可能性とその学びにおける意義を確認する。
 第III部では、中国、韓国における女性の社会参加と学習との関連をとりあげる。第九章は韓国の女性運動をとおして、保育条例の制定をめぐる地域社会におけるパワーの問題と、この活動をとおした個人と集団のエンパワーメントの相互関係を明らかにする。第十章は社会改革が進む中国における女性の状況を確認するとともに、彼女たちのエンパワーメントのための成人教育実践をとりあげる。東アジアにおける新しい動向を確認する。

目次

序章 ジェンダー・労働・成人教育
 一 女性と成人教育研究の課題
 二 労働・ケアワーク・ジェンダー
 三 本書の構成

I 女性の学びの理論的地平
第一章 エージェンシーとしての女性と学習
 ――「女性問題学習」論を越えて――
 はじめに
 一 「女性問題学習」時代の到来――実践からの提起
 二 「女性問題学習」の新たな展開
 三 女性の社会参加と学び――「女性問題学習」パラダイムを越えて
 おわりに

第二章 社会的シティズンシップと成人教育
 はじめに
 一 福祉国家と女性の排除
 二 エージェンシーとしての女性
 三 エージェンシーと学び
 四 実践のコミュニティにおける学びの作法
 おわりに

第三章 エンパワーメント・ポリティックスと女性
 はじめに
 一 エンパワーメント論の展開
 二 女性のエンパワーメントをめざした学習
 三 グローバル・フェミニズムと女性運動
 四 エンパワーメントの社会的基盤
 五 エンパワーメント・ポリティックスという視角
 おわりに

II 女性の労働と学びの諸相
第四章 女性労働者たちのたたかいと学び
 ――丸子警報器・臨時社員の賃金差別訴訟への道のり――
 はじめに――女性労働者のたたかいを「学び」として読むことの意味――
 一 丸子警報器・女性臨時社員の労働実態
 二 「臨時社員」という名の差別@
 三 女性臨時社員の学びとエンパワーメント――労働組合への加入から提訴まで
 四 賃金差別訴訟に裁判所はどのように応えたか
おわりに――女性労働者たちのエンパワーメント――

第五章 女性の労働権についての学び――働く女性の学習活動の事例から――
 はじめに
 一 働く女性の学習と社会教育@
 二 「国際婦人年」と当時の働く女性
 三 女性の労働権にかかわる学習の内容と方法
 四 学習による参加者の意識形成――「北区の会」参加者調査から
 五 働く女性のエンパワーメントヘ
 おわりに

第六章 ジェンダー差別の意識化とエンパワーメント
 ――性差別賃金裁判原告のライフヒストリーをとおして――
 はじめに
 一 労働の場のジェンダー構造と学習
 二 職場のなかで培われる意識@
 三 職場のジェンダー差別への抵抗
 四 女性の労働権についての学習
 五 職場のジェンダー差別を「外に訴える」ためのエンパワーメント
おわりに――労働権にかかわる学習の構築に向けて

第七章 生活協同組合と女性の学び
 はじめに
 一 協同組合セクターへの参加と学びの意義
 二 生協協同組合のジェンダー構造
 三 もうひとつの分断――福祉活動とジェンダー
 おわりに

第八章 新しい労働と女性の学び
 はじめに
 一 労働社会の危機と再編
 二 新しい労働とは何か
 三 ワーカーズ・コレクティブの実践と女性の学習
 おわりに

II 東アジアの女性・エンパワーメント・学び
第九章 女性運動のダイナミズムと学び――韓国の事例をとおして
 はじめに
 一 韓国の女性運動の変容と課題
 二 「水原女性会」の展開と学びの構造@
 三 放課後保育運動と政治的実践
 四 組織と個人のエンパワーメント
 おわりに

第十章 中高年女性の社会的包摂と職業継続教育――中国大連市の事例をとおして――
 はじめに
 一 職域開発支援組織の構築
 二 養成講座の開設と展開
 三 中高年女性の再出発――エンパワーメントの視点から
 おわりに
 あとがき

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