――近代社会批判の展開―― 中川 弘(福島大学)著 |
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本書に収めた論稿は、1840年代=初期マルクスとエンゲルスの主要な著作や論文に即して、両者の思想形成の歩みを考察したものであるが、相互の関連と重なり合いを度外視して言えば、考察の対象とした主題内容は、本書の構成からも分かるように、(1)マルクスとエンゲルスによる近代社会批判と未来社会論の内容(第一篇と第三篇)、(2)唯物論的歴史観の形成(第二篇)、(3)経済理論の形成(第四篇)の三つの領域に分かれる。両者による近代社会批判の要諦は(本文で触れるような、視点・着眼点の相違を措いて言えば)、近代社会が「人間の本質」の疎外の極限に達した社会であることを、ブルジョア社会の経済的諸関係に即して解明することに置かれていた。そのばあい、「人間の本質」についての唯物論的把握は、人間社会の歴史的発展の必然性についての認識に連動していく内容をあわせもっていたがゆえに、それは同時に唯物論的歴史観形成への道ともなっていったこと、そして近代社会までの人類史の総体は、「人間の本質」の疎外の歴史にほかならないこと、またそうであるがゆえに近代社会までの人類史は、人間社会の「前史」たらざるをえない性格を刻印されざるをえなかったのであり、共産主義とは人間の疎外からの解放=「人間解放」としての内容を有するものであること、これらの諸点についての両者の認識の到達点=その具体的内容についての考察が、第T篇〜第V篇までの中心テーマをなしている。これに対し第W篇は、ブルジョア社会の生産諸関係の総体=経済構造と、その経済的運動法別についての解明が、40年代に経済学の問題としてどこまで成し遂げられて
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