小林一穂(東北大学)著

イデオロギー論の基礎

46版上製 238頁 本体1600円

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ある種の「成熟」期にはいった日本社会は,「情報化社会」の展開がめざされ,第3次産業の隆盛とあいまって,情報,知識そのものの商品化がいちだんと進行している。また,余暇時間に教養やスポーツへ積極的に志向する傾向も拡大している。以前にもまして,文化,情報,知識などが現在の生活上に大きな位置をしめるようになってきている。ところが,これまでのマルクス社会理論においては,知識,イデオロギーや,芸術,宗教などの,人間の精神的諸活動を,社会全体のなかで従属的にしかあつかってこなかった。いわゆる「土台−上部構造論」がそれである。しかし,今日の知識社会化,情報社会化のなかで,精神的側面を主要な契機とする人間の活動を,たんに「土台」に従属する存在としてのみとらえる「土台−上部構造論」は,もはや社会把握の有効な方法枠組たりえなくなってきたといわざるをえない。そこで,われわれは,精神的活動をとらえる方法枠組そのものを,マルクスに内在するなかから練りなおすことが必要だと考える。本書では,まずマルクスの人間=社会把握の再検討という課題にとりくみ,その検討を通して精神的活動の方法枠組の基礎づけをおこなおうとする。

第一部 マルクスの人間=社会把握
 第1章 「土台−上部構造論」の問題点
  第1節 「唯物史観の定式」
  第2節 通説的理解と異論
 第2章 課題と対象
  第1節 変革の立場
  第2節 眼前の事実
 第3章 生産過程としての社会
  第1節 人間存在と生活
  第2節 生産活動
  第3節 生産過程
 第4章 近代ブルジョア社会の構造
  第1節 商品と貨幣
  第2節 資本制的生産過程
  第3節 関係の自立化
  第4節 物象化のしくみ
 第5章 変革の展望   
  第1節 変革と自由
  第2節 自由と自己実現
  第3節 自由時間の創造
  第4節 自由の領域
 第6章 「土台−上部構造論」をこえて
  第1節 マルクスの動態的把握
  第2節 マルクスの重層的把握
  第3節 「定式」の再検討
  第4節 「土台−上部構造論」の克服

第二部 『ドイツ・イデオロギー』の研究

 第7章 第1巻 第1篇「フォイエルバッハ」の文献問題
  第1節 草稿の状態
  第2節 諸版の刊行と問題点
  第3節 いくつかの論点
  第4節 おわりに
 第8章 生活過程概念
  第1節 問題の所在
  第2節 唯物史観の出発点の叙述
  第3節 マルクスの初期思想
  第4節 生活過程概念の意義 
 第9章 イデオロギー批判と社会把握
  第1節 本章の課題
  第2節 唯物論的社会把握の基礎
  第3節 イデオロギー批判の確定
  第4節 イデオロギー批判の深化 
  第5節 イデオロギー批判と日常意識               
  第6節 『ドイツ・イデオロギー』の到達点と残され
      た課題
 第10章 「国家=幻想的共同体」論
  第1節 はじめに
  第2節 イデオロギー批判の展開
  第3節 国家論の展開
  第4節 おわりに

  文献

  あとがき

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