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鈴 木 裕 久(東京大学名誉教授)

 臨床心理研究のための
質的方法概説

A5判並製 220頁 本体 1900円

発売中 

 

 ここ数年,臨床心理学専攻の大学院生とともに質的方法の勉学を続けてきて,この分野の標準的知識の学習の難しさを痛感した。自分自身が正しいと考える質的方法をドグマティックに語ることは容易であるが,客観的かつ公平に多くの立場と方法の鳥瞰図−−これが学習の初期には必要不可欠である−−を作ることが難しい。あまりにも広がりが大きすぎてカバーしきれないし,そしてそれゆえであろうが,学習のための標準的なテキストとして適切なものがほとんどないのである**)。提案されている多くの方法のうちの主要なものだけでも多少なりとも整理し,体系化して示してくれるような概説書が欲しい−−これは学生と同様教師にとっても切実な希望である。………もとより,現在,優れた概説書が直ちに出来る状況ではない。簇生している諸方法の淘汰の進行−−これはだいぶ時間がかかりそうである−−を待って,その上で生き残ったものの体系化の試みを積み重ねていく他はなかろう。そしてそれまでにわれわれがなし得ることは,たかだか将来の作業のための捨て石を作ることに過ぎない。本書もそうした捨て石となることを目指して刊行されるものである。
 筆者の個人的好みはなるべく押さえ,方法(のシリーズ)を創造するというよりはむしろ,提唱されている多くの方法の中から使えそうなものをできるだけ公平に選び出して整理・引用・紹介しようと努めたが,筆者の質的方法の利用経験は量的方法に較べると格段に少なく,また質的研究が強く批判する「実証主義」的立場からの評価・選択が入り込んでいる*)ので,質的方法を信奉する人びとにとっては到底承服しがたい内容になっているであろう。是非とも本書に対する批判的な観点から異なった概説書が続々と書かれることが望まれる。(「はじめに」より)

まえがき
第I部 質的方法の基礎理論
 
第1章 質的方法と量的方法の区別
第2章 心理学における質的方法の興亡
  1 再評価の経緯
  2 質的研究からの「実証主義」批判
  3 質的方法が主張する利点
  4 質的方法を用いるべき状況
第3章 質的方法の論理
  1 演繹と帰納
  2 複数の研究方法:「研究対象 × 目的」vs.方法
  3 測定の問題――妥当性と信頼性
  4 科学による「証明」の限界
第4章 研究の倫理
  1 Ss(被験者、対象者)に及ぶ被害
  2 Ssへの害を防ぐための基本的制度
  3 科学者としての基本的倫理
  4 法的問題
第5章 質的研究の評価ポイント

第 II 部 質的方法の類型

第6章 質的方法の分類(1):質的研究の諸学派
  1 現象学派
  2 社会的構築主義学派
第7章 質的方法の分類(2):形態の分類

第III部 研究の企画・準備

第8章 問題設定・理論図式作成・スケジュール決定
  1 問題の設定
  2 理論図式の作成
  3 スケジュールの決定
第9章 研究対象の選定

第IV部 少数事例の研究:質的研究の共通タイプ

第10章 事例研究法の概略
  1 事例研究法の特徴
  2 事例研究法の盛衰
  3 事例研究の側からのグループ比較研究批判
第11章 自然的事例研究
  1 事例研究法の効用
  2 事例研究法の限界
  3 限界を超えるために
第12章 単一事例実験
  1 いわゆる「実験」と1事例実験*)の違い−−1事例実験派の主張
  2 1事例実験デザインのタイプ
  3 分析
  4 この方法の利用
  5 批判

第V部 データ収集

第13章 観察
  1 観察のタイプ
  2 参与観察(participant observation)の諸問題
  3 秘密の観察
  4 観察のための道具
  5 重要な観察対象――非言語行動
  6 観察結果の分析と結果の表示
第14章 面接
  1 目的による面接の分類――治療的面接と研究的面接
  2 面接者,面接対象者の人数による分類
  3 面接の「構造化の程度」,「深さ」による分類
  4 質的研究においてよく用いられる面接の性格
  5 質的研究での面接の価値
  6 質的面接法の基底にある理念――面接対象者の位置づけ
  7 面接者の資格要件
  8 面接法の選択と事前に考慮・準備すべき点
  9 面接内容の「半構造化」
  10 面接場面での手順と留意点
  11 質問の仕方
  12 とくに微妙な問題を扱う面接
  13 プリテスト
  14 面接の倫理
  15 集団面接――グループ・インタビュー,フォーカス・グループ
  16 面接結果の整理と分析

第VI部 言語データの分析

第15章 内容分析(Content Analysis)
  1 内容分析とは何か
  2 内容分析の基本課題
  3 内容分析の基本的手続
  4 質的内容分析

第16章 会話分析(Conversation Analysis)
  1 エスノメソドロジー:会話分析の起源
  2 会話分析の発展
  3 会話分析の方法
第17章 談話分析(Discourse Analysis)
  1 談話分析の基本的性格
  2 談話分析の手順
第18章 物語分析(Narrative Analysis)
  1 物語分析の位置づけ
  2 「物語」,物語の重要性,物語分析の特徴
  3 この方法の限界
  4 物語分析のためのデータ収集――物語面接(Narrative Interview)
  5 物語の分析

第VII部 パタン化された方法

第19章 エスノグラフィ
  1 研究の場と研究者の立場
  2 対象者
  3 データ収集
  4 分析
  5 エスノグラフィのタイプ
  6 研究成果の形態と評価規準
第20章 データ対話型理論(Grounded Theory)
  1 基本的性格
  2 データ収集と分析
  3 成果の形態と評価規準

 文 献

参考:編集長見習い日記

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