本書を貫くモチーフは、新自由主義が闊歩している今日のグローバリゼーションのなかで、もしマルクスが生きていたら、どのようにこの現実を判断したであろうかということである。
マルクスが生きていた時代も、ヨーロッパのグローバル化の時代であった。そのなかで、彼は、グローバル化を推し進めた資本主義を根底から批判し、それをのり超える展望を模索したのである。今日のグローバリゼーションは、もちろん規模と質においてマルクスの時代と異なることはいうまでもない。しかし、資本のグローバル化であることにはかわりがない。それをベースにしたグローバル化が進行している。そうである以上、マルクスに立ち返ったグローバル化批判が求められているように思われる。
日本が格差社会となり、国民の総「中流意識」の崩壊現象が起きているのも、グローバル化と無関係ではない。今日、「勝ち組」「負け組」による格差社会が批判され始めているが、格差社会をつくり出してきたのは、「構造改革」「官から民へ」「小さい政府」などのスローガンのもとで徹底化されてきた市場万能主義であり、それを押し進めてきた背景にあるのは資本のグローバル化だからである。そのイデオロギーとなっているのが新自由主義にほかならない。
格差は、国内だけにかぎられない。資本によるグローバル化のなかで、南北間における富の偏在が深刻化し、環境や資源にかんする南北格差も広がっている。このままいくと、人類自身の手による地球の破滅も現実となる可能性すら生じているが、人類は、この危機をのり超える理性を有しているはずである。このような問題意識を共有しながら、本書はまとめられている。(「まえがき」より)
第1章 グローバリゼーションの両価性
岩佐 茂(一橋大学教授)
一 マルクスの見たグローバリゼーション
二 疎外された労働、疎外された交通
三 グローバリゼーションにおける「資本の文明化作用」
四 今日のグローバリゼーションの孕む問題点
(1)20世紀のグローバリゼーション
(2)グローバリゼーションと新自由主義
(3)富の偏在による貧困問題
(4)グローバル化した環境問題
(5)均質化される文化
(6)競争原理・拝金主義・効率主義の価値観
五 グローバルなものとローカルなもの
(1)ローカルを無視したグローバリゼーション
(2)特殊ローカルなもののグローバル化
(3)東アジア共同体の可能性と条件
第2章 グローバル化時代におけるグローバルな問題
――環境問題に即して――
劉 奔(原博昭)(中国社会科学院哲学研究所『哲学研究』前副編集長)
一 資本主義の生産様式と環境破壊
二 経済のグローバル化――環境問題が地球規模の問題となる歴史的前提
三 経済のグローバル化を背景とした矛盾の分析
四 環境問題と体制改革
第3章 資本のグローバル化と大工業
宮田和保(北海道教育大学教授)
第一節 剰余価値の利潤への転化
第二節 近代経済学の利潤論
第三節 費用価格と競争
第四節 大工業と新しい社会の形成要素
第4章 文化帝国主義を批判する
黄力之(上海市党学校教授)
一 帝国主義は西洋の拡張に源を発する
二 帝国主義の文化的な支え
三 文化帝国主義の構造にかんする分析
四 近代性の文化帝国主義的内包
五 文化帝国主義による文明モデルの限界性
六 文化帝国主義の歴史的終焉
第5章 グローバルなリスク社会と新自由主義の幻影
庄 友剛(蘇州大学助教授)
一 グローバルなリスク社会の到来
二 リスク社会の特徴
三 リスク社会 ―― 自由と必然との「二律背反」
四 リスク社会の実践的存在論的基礎
五 リスク社会を形成する世界史の条件
六 グローバルなリスク社会と近代的な発展
七 再帰的近代化論
八 グローバルな資本関係
九 世界市場
十 新自由主義が描く世界像
十一 新自由主義の本質
十二 グローバルなリスク社会の歴史的考察
十三 リスク社会の今後の趨勢
第6章 グローバルな発展における公正性
憑 顔利(西南師範大学教授)
一 グローバルな発展における公正問題および公正性という概念
公正性とは何か
グローバルな発展の公正性とは何か
二 グローバルな発展の公正性における主体とその権利について
グローバルな発展の公正性の主体について
グローバルな発展の公正性における権利問題
三 グローバルな発展の公正性の機会と結果
グローバルな発展の公正性の機会について
グローバルな発展における公正性の結果について
第7章 周辺資本主義国における「普遍性」問題
明石英人(日本女子大学附属高校教諭)
1 グローバル化にともなう社会意識の変化
2 「批判的論評」のドイツ社会意識・イデオロギー論
@労働者蜂起の「普遍的精神」
Aドイツ労働者の理論的意識
3 『ドイツ・イデオロギー』における二つの「普遍性」
4 晩期マルクスのロシア社会意識・イデオロギー論
@ ロシアの世界市場編入と共同体の局地性
A 国家仲介型の資本主義とイデオロギー問題
5 グローバリゼーション論におけるマルクス再読の意義
第8章 生存・生活世界・承認
――エコ・フェミニズムとフランクフルト学派の架橋の試み――
三崎和志(法政大学非常勤講師)
一 ヴァンダナ・シヴァ『グローバリゼーションと貧困』
二 〈生 存〉の輪郭―マルクスの〈本源的蓄積〉、〈生産的労働〉との関連で
三 〈生 存〉と〈生活世界〉
四 〈生 存〉の〈承認〉―〈主婦化〉に抗して
第9章 イデオロギーとしてのグローバリゼーション
――反グローバリゼーションの論理と運動の視点から――
大屋定晴(東京医科歯科大学非常勤講師)
1 「グローバリゼーション」というイデオロギー
2 グローバリゼーションの「推進者」と新自由主義的知識人との物質的関係性
3 グローバリゼーション批判の胎動
――「連合」構築の場としての世界社会フォーラム
4 民衆教育運動としての世界社会フォーラム
5 オルタナティブの新たな追求における批判的知識人の役割
おわりに ――「グローバリゼーション」の批判とマルクス