『ライフヒストリー研究の基礎 −個人の「語り」にみる現代日本のキリスト教』 四六版上製230頁 本体1700円 発売中 |
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近年、人文・社会科学のさまざまな分野で成果が挙げられているライフヒストリー研究。本書は、そのライフヒストリー研究を行ってきた社会学の若手研究者が、自らの研究をまとめ直した最新の研究成果である。次のような3部構成になっている。
第I部は、「ライフヒストリーの基礎の基礎」とも言うべき、用語の問題や方法論・資料論、先行研究の検討などが、三編の論文により論じられている。 第1章では、用語の整理が行われた後、社会学だけでく、歴史学・地理学・心理学・民俗学・人類学・教育学などの分野における先行研究を概観し、ライフヒストリーとはどのようなアプローチなのかをまとめた。第2章では、口述史と自分史を比較し、ライフヒストリーの資料自体の問題と、その方法論に関する諸議論を整理した。さらに第3章では、宗教研究へライフヒストリー・アプローチを導入することの有効性を論じた。 第II部は、ライフヒストリー・アプローチによる事例研究である。対象者にインタビューし、その人生に関する「語り」をまとめた「口述史」と対象者自身が自らの人生を綴った「自分史」をそれぞれ用いた実証研究を行い、日本のキリスト教に関する新たな視座を四編の論文にて提示している。 第4章と第5章は、<牧師夫人>の諸問題を扱った。第4章は、<牧師夫人>自身の調査結果やさまざまな「語り」を示しつつ、このテーマに関する現代的課題の整理を行った。それを踏まえて、第5章では、ある牧師夫人の口述史を描いた。さらにこのテーマの今後の展開をも示した。 第6章と第7章は、従来のキリスト教研究で等閑視されていた「信者周辺」への論究を、自分史を積極的に用いることで試み烽フである。第6章は、信者・信者周辺・非信者という類型のもと、自分史の記述に見られる信者や信者以外の信仰生活の諸相をとらえようとした。第7章では、第二次大戦後のいわゆる「キリスト教ブーム期」に受洗した人々の、その後を追った。 第III部は、ライフヒストリー研究の今後の展開を示した論文を二編揃えた。 まず、自分史を高齢者たちの重要な自己表現の一つと見なした第8章では、1990年代以降、人口に膾炙した散骨や生前葬などと自分史が、同じ位相にあるという見解から、その比較検討を行った。さらに第9章では、自らを含む4名の大学・短大教員が指導した学生たちのライフヒストリー調査を、教員・学生のそれぞれの記述から考察した。そして、ライフヒストリー・アプローチが社会調査、ひいては社会学教育に効果があることを示した。 以上、本書のすべての章を簡潔に紹介した。自らの宗教社会学立場による事例研究を軸に、ライフヒストリー研究の過去・現在そして未来への展望を含んだ内容になっている。 《 目次 》 序 第I部 ライフヒストリーの基礎の基礎 第1章 Cフヒストリーとは何か 第2章 ライフヒストリー・アプローチの問題系−口述史と自分史の資料論・方法論 第3章 宗教研究とライフヒストリー 第II部 ライフヒストリー・アプローチの実際 第4章 <牧師夫人>研究の課題 第5章 ある<牧師夫人>ライフヒストリー 第6章 信者周辺への接近―自分史を資料として 第7章 戦後ブーム期の信者たち 第III部 ライフヒストリー研究の課題 第8章 大衆長寿社会における自己表現の方法―自分史と<受葬>にみる 第9章 社会学教育としてのライフヒストリー あとがき 参考文献 |