20世紀末の世界史的激動――なかんずくソ連邦の解体とそれに続く一連の諸結果――を承けて、まだその余燼もさめやらぬまま、いわば慌ただしくその幕を開けた21世紀の世界は、10年を経た今日に至るも、依然として混迷のさなかにある、否、いや増す混沌のさなかに留まり続けているかに見える。政治・経済・社会・等のいずれの分野においても、すべては五里霧中の状態とでもいうべき様相を呈し、人類はこの期に及んで、己の進むべき方向を探しあぐねている感さえある。このような閉塞的状況は、国の内外を問わず、世界中に拡散しているようにも見える。というより、いわゆるグローバリゼーションの展開に伴い、各国が、資本の画一的な価値観とその専横的な力に、否応なしに巻き込まれていく過程のなかでは、国を内と外とに分けることの意味が、ますます希薄になってきている。しかし、そうこうしているうちにも、歴史は休み無く先を急ぎ、一方では、国家間・民族間・企業間・個人間における富の偏在傾向をいよいよ顕著にし、他方では、至る処でコミュニティ的な人間関係を分断し、商品経済的思考に習熟した全き個人を育成するであろう。だが、こうした傾向が収斂する先にはどんな世界が待ち構えているのであろうか。そもそも現在の世界は、したがってわれわれ自身は、いま、どのような目標に向かって突き進もうとしているのか、ここで一度立ち止まって、沈思黙考してみる必要があるのではなかろうか。かつてのブルジョア革命時のスローガン「自由・平等・友愛」は、その完成した形式を各国の法律のうちに留めながら、その実体的内実はますますその形式から乖離しつつあるように思われるからである。「地獄への途は善意で舗装されている」という古くからの警句が、将来にわたって多少なりとも現実性を帯びることのないよう、切に念じたいものである。‥‥‥‥
本書は二部構成となっている。第一部では、いわゆる政治経済学の「原論」で扱われる内容が、マルクスの『資本論』に即してコンパクトに纏められている。第二部では、如上のように、今日の世界が抱える経済的諸課題のいくつかについて、各執筆者がそれぞれの切り口から自由に問題提起を試みている。それらが、われわれの社会の来し方、行く末を考える上で、幾ばくかの刺激なりきっかけにでもなりうるとすれば、執筆者としては望外の喜びというものである。
はしがき
第1部 政治経済学の原理
序説 経済学の対象と方法
第1章 資本の生産過程
1 商品と貨幣
2 資本の生成
3 絶対的余剰価値の生産
4 相対的余剰価値の生産
5 余剰価値論の総括
6 資本の蓄積過程
第2章 資本の流通過程
1 資本の循環
2 資本の回転
3 社会的総資本の再生産と流通
第3章 資本の総過程
序 「資本の総過程」論の対象
1 余剰価値(率)の利潤(率)への転化
2 利潤の平均利潤への転形
3 商業資本(商品取引資本と貨幣取引資本)
4 利子生み資本と信用制度
5 地代
おわりに―資本の物神性
2部
第1章 マルクスの未来社会論
(木 島 宣 行)
第1節 社会主義の世紀
第2節 マルクスが目指したもの
第3節 一国一工場構想
第4節 連合体構想
第5節 理性に対する過信
第6節 プロレタリアート独裁と国家の死滅
第7節 社会の調和と多様性の問題
おわり
第2章 政治経済学の復権 ―― A.センにおける経済学と倫理学
(守 健 二・玉 手 慎 太 郎)
はじめに
第1節 現代経済学と政治経済学:A・センは経済学をどのように
批判したのか
第2節 経済学の倫理的基礎:経済学はいかに功利主義に依拠して
いるか
2―1 経済学の人間観と功利主義
2―2 経済学の規範と功利主義
2―3 ホモ・エコノミクス前史
第3節 功利主義批判:功利主義のどこに問題があるのか
3―1 人間観としての功利主義に対する批判
3―1―a 利己的な合理性と人間本来の道徳性
3―1―b 利己的な合理性と囚人のディレンマ
3―2 規範としての功利主義に対する批判
3―2―a 帰結主義への批判
3―2―b 厚生主義への批判
3―2―b―1 主観主義への批判
3―2―b―2 還元主義への批判
3―2―b―3 利己主義への批判
3―2―c 総和による順位付けへの批判
付論:ケイパビリティという焦点変数
第4節 功利主義と批判精神:経済学は功利主義の何を切り捨てたのか
4―1 経済学による功利主義の矮小化
4―2 本来の功利主義――その批判精神
第5節 結語
第3章 現代資本主義への基本視座
(川 村 哲 也)
はじめに
第1節 前 史
第2節 戦後経済体制
1 労働者の統制システム
2 内部労働市場
第3節 スタグフレーションと長期不況
1 失業と規律化
2 内部労働市場の危機
第4節 グローバリゼーションの時代
おわりに
第4章 グローバリゼーションの展開と本質
(大 澤 健)
第1節 グローバリゼーションを理解するための視座
1 はじめに
2 現在のグローバリゼーションを理解するための基本的な視点
第2節 資本主義の特徴と国家の役割 資本主義の全体像
2 資本主義的生産の特徴
3 資本主義社会と「国家」の存在理由
第3節 20世紀の世界と国家 ――3つの世界と国家――
1 19世紀の帝国主義6)から20世紀の「国家の時代」へ
2 20世紀の先進資本主義国 ――「市場の内部化」と国家――
3 20世紀の社会主義国と発展途上国
第4節 グローバリゼーションへ
1 NIEs の成長,あるいは途上国の工業化
2 多国籍企業の展開とグローバリゼーションへの道
3 グローバル市場への再編
4 グローバリゼーションと国家の変容
おわりに
第5章 資本主義的エクスプロイテーションと自然共生経済
(山 口 拓 美)
はじめに
第1節 人間による人間のエクスプロイテーションと自然の
エクスプロイテーション
第2節 土地自然力のエクスプロイテーションと『資本論』
第3節 日本式循環型農業の崩壊過程
第4節 自然共生経済への1つの道筋
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