本書は,4部構成になっています。第1では,保育や介護の事故の実態と職員の専門性との関係を中心に述べています。主として事故の被害者や職員を念頭にいれています。第2は,福祉サービスの提供者である法人を対象にして福祉サービスの質を高めるには,法人はどんな政策をたて,どう対処したらよいかを,事故との関係で述べています。第3は,法人の役員,施設長,事故担当者などを対象にして法人運営のあり方を述べています。第4は,社会福祉基礎構造改革の長所と問題点を洗い直し,社会福祉における競争とは何かをいろんな事例をあげながら述べています。第1から第4までは,相互に関連しているものの,それぞれ独立しています。第1から第4のテーマは本書末尾の「講演活動について」で述べてきたものを再構成しています。社会福祉の現場の職員は第1から第4までをじっくりと読んでいただいて,今後の自分たちの進べき方向の参考にしていただければと思っています。また,東日本大震災と原発事故1ヶ月間の状況を可能な限りリアルタイムで加筆をしています。子どもや高齢者の生命・身体を護るには保育や介護の事故だけでなく,天災(津波)や人災(原発)の事故の問題をとりあげなければ,利用者の生命を危うくする事故の全体像とこれを防止するための法人,職員の役割を明らかにすることができないと考えたからです。社会福祉の職員はもとより,自治体,法人の担当者,家族等を含めて大勢の人々に本書が読まれ,天災,人災を問わず,事故の減少に取り組まれたり,再発防止に努力されることを心より期待します。
第1.保育事故,介護事故を防止するために
――職員の専門性とは
1.保育事故・介護事故をめぐる問題状況
2.福祉サービスと事故との関係
3.事故の発生と事件との関係
4.事故の法的責任と再発防止
5.まとめ
第2.福祉サービスの質と事故との関係
――利用者本位の福祉サービスとは
序.社会福祉サービスの質をめぐって
1.保育・介護問題にみる国民の変化
2.いま,何が問われているか
3.国の福祉政策と職員の問題性
4.利用者本位の福祉サービスとは
5.生命・身体の尊重と職員の専門性
6.保育・介護の質をどう確保するか
第3.社会福祉の法人の運営と利用者の権利保障
1.社会福祉法人の役割
2.社会福祉の団体の役割
3.社会福祉法人の運営の注意事項
4.役員会の運営などについて
5.チェック機能の大切さ
6.利用条件の向上のために
7.国民に信頼される社会福祉の法人になるために
第4.市場社会における福祉施設の役割
―― いのちを護る社会福祉職員の任務――
1.市場社会と競争をめぐる問題
2.時代の要請と職業人の倫理感
3.社会福祉法人と競争をめぐる問題
4.市場社会下の施設運営について
5.競争との関係で今後なにを法人・職員はすべきか
6.英知を結集するために