片 山 善 博(群馬大学・立正大学,他講師)著

自己の水脈
ヘーゲル『精神現象学』の方法と経験

46判上製 290頁 本体 2000円 発売中

 本書の課題は,ヘ−ゲルの『精神現象学』(以下『現象学』)を,自己を知るとはどういうことか,すなわち<自己知>探究の書として考察し,その意義を明らかにすることである。<自己知>とは,周知のようにソクラテスの「汝自身を知れ」以来,さまざまに探究され,哲学の根本問題のひとつとなっている。近代哲学においても,たとえばホッブズの『リヴァイアサン』やルソ−の『人間不平等起源論』の序文において記され,人間本性(自然)をめぐる問いとして,新たな人間像,社会像の構築の出発点になっている。また,ドイツ観念論においても,カントによる認識の超越論的な基礎付けの問題をめぐる<知の知>すなわち<自己知>の問題に焦点が当てられてきた。さまざまな現象にかかわる<知>の吟味が,「自己意識」あるいは<自己知>の問題として探究された。現象にかかわる<知>すなわち経験を通じて得られる<知>は,必ずしも事柄の<真相>をいいあてているいとはいえない。しかし,事柄の本質を探っていく場合,やはりそのような<知>を手がかりぬきに,事柄の真相を問い尋ねることはできないだろう。つまり,経験を通じて得た<知>を,まさに自己の経験にそくして吟味する他には,事柄の真相の探究は,ままならないであろう。この現象にかかわる<知>を通じて,<知の知>たる<絶対的な知>を探っていったのがヘーゲルである。そして,こうした<自己知>の構造と展開を徹底的に追究した著作が,イエナ期に著された『現象学』である。本書は,この<自己知>の構造と展開を『現象学』の叙述を追うことで考察していきたい。(「はじめに」より)
 
第1部 <自己知>の方法論  
   
 第1章 「意識の経験の学」の方法論 
 第2章 「意識の経験」と「絶対知」
   
第2部 <自己知>の経験の歩み 
 
 第3章 「自己意識」論の射程 
 第4章  近代的主体性論の射程            
 第5章  近代的主体性の意義と限界   
 第6章 「良心」論の射程 
    
第3部 <自己知>とは何か−−生と死の弁証法−− 
  
 第7章 「生命」論の意味するもの 
 第8章 <死と再生>の意味するもの−−精神の根拠−−
  
補論 『現象学』の現代的意義―他者と承認をめぐる一考察

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