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仲本章夫・島崎隆・岩佐茂他著 現代哲学のトポス ――世紀末・自然・環境―― 46判上製 304頁 本体 2000円 |
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「天下麻の如く乱る」という言葉がある。わが国はかってそのような状況に何度となく直面してきた。これを科学的に解明して、行く道を示し、国民に勇気を与える。それは社会科学の仕事である。わが国ではじめて社会科学が成立したのは、マルクス主義(科学的社会主義)が登場してからのことと思う。それがマルクス主義にとって幸とするか不幸とするか今後の歴史の判断に委ねるほかはないが、1917年のロシア革命の影響の大きさは否定することができない。明治維新によって「神の国」になったわが国の体制下で生活していた多くの心ある人に、ロシア革命は大きな激励と希望を与えた。したがって、運動の面でも理論の面でも、ソビエト連邦の影響が大きかったことは当然のことであった。 1989年に始まる東ヨーロッパの激動、1990年のソ連共産党の解体、引き続くソビエト連邦そのものの崩壊はかつてないインパクトを与えた。「資本主義が社会主義に勝利した」「マルクス主義は崩壊した」という宣伝が、特に日本では行われた。しかし、判明したことは世界全体があまりうまくいってない、ということであった。しかし、マルクス主義にたいする疑念が数多くの人びとによって表明された。しかし、現時点にとって明らかになったことは、従来のタイプのマルクス主義は時代の変化に立ち遅れたということに過ぎないということではないか、と私は思う。問題は、マルクス主義の創始者たちが時代に取り組み、そして創出した理論を現代に生かすことである。そして、私たちの生活するこの社会こそ、私たちの理論を鍛える坩堝(るつぼ)であり、ハンマーである。かつて、デカルトなど近世哲学の創始者たちは、腐敗したスコラ学の屍体のなかから「世間という書物」を読むことによって新しい思想を作り出していった。私たちのなすべきことは、マルクス主義の創始者たちの理論をただ解釈することでなく、それを彼らの資本主義批判の情熱とともに取り出して、現代のなかに甦らせることではなかろうか。本書に収められた諸論文は、その理念によって貫かれようと意図されているはずである。もちろん、私たちの、とくに私の非力によって、意図のどれほどが実現されたがは不明である。しかし、人類が存続して行くためには、「現代」との取り組み、その行方の解明は不可欠であると思われる。とりあえず、その一里塚の役割を果たすことができれば幸いである。(本書、仲本論文より) 第1部 世紀末の現代的構図 |