本書の名称にあえて『政治経済学』の名称を用いたのは,単純に英文名の "Political Economy" を想念してのことである。周知のように,Political Economy は,そもそも経済学が誕生したときに当時の人々から授かった名前である。その意味では, Political Economy が経済学の嫡流であるという矜恃も込めているが,そこまで気負わずとも,近年,政治経済学という呼称を,労働価値説の流れをくむ経済学という受け止め方が比較的多くなっていることも,この名称にした付随的な理由のひとつである。
本書の構成は一目瞭然でろう。第1部では,通例,「経済原論」として扱われる内容を,できるだけコンパクトにまとめたものである。つとめて伝統的な内容にこだわったのは,それなりの思いがあってのことである。第2部は,第1部の「展開」という形をとっているが,本書の執筆者は,すべて「経済原論」を主たる専門領域としている者であり,むしろ経済原論の「周辺」というぐらいがいいところであろう。とはいえ,無論,現在の社会が抱える諸問題を念頭におきつつ,それらと抽象理論との接点を探るという枠内で,それぞれにクリテカルなテーマを撰んだつもりである。
はしがき
第1部 政治経済学の原理(柴田信也)
序説 経済学の対象と方法
第1章 資本の生産過程
1 商品と貨幣
2 資本の生成
3 絶対的剰余価値の生産
4 相対的剰余価値の生産
5 剰余価値論の終始
6 資本の蓄積過程
第2章 資本の流通過程
1 資本の循環
2 資本の回転
3 社会的総資本の再生産と流通
3章 資本の総過程
序節 「資本の総過程」論の対象
1 剰余価値(率)の利潤(率)への転化
2 利潤の平均利潤への転形
3 商業資本(商品取引資本と貨幣取引資本)
4 利子生み資本と信用制度
5 地 代
おわりに―― 資本の物神性
第 2 部 政治経済学の展開
第1章 マルクスにおける自由の概念(木島宣行)
1 「消極的自由」と「積極的自由」
2 ヘーゲルとマルクス――自由の哲学
3 市場 ――「自由」か「強制」か
4 自由主義批判
5 理性と組織
6 「状況をもたない自由」
第2章 社会的ディレンマと経済学批判(守 健二)
はじめに
1 ホモ・エコノミクスあるいは疎外
2 チーム生産あるいは協業
3 協業のディレンマ
4 制度における協業と搾取
5 唯物史観の制度論:効率性と社会的不公正
第3章 市場経済・資本主義・社会主義(大澤 健)
はじめに
1 「経済学」における二つの系譜と社会主義
2 20世紀における資本主義と社会主義
第4章 循環型社会のための諸条件(山口拓美)
1 経済理論と廃棄物問題
2 産業廃棄物をめぐる諸問題
3 一般廃棄物をめぐる諸問題
4 経済本質論と廃棄物政策
5 持続可能な循環型社会のための諸条件
執筆者
第一部 柴田信也(東北大学経済学部名誉教授)
第二部 第1章 木島宣行(東北大学医療技術短期大学部非常勤講師)
第2章 守 健二(大分大学経済学部助教授)
第3章 大澤 健(和歌山大学経済学部助教授)
第4章 山口拓美(神奈川大学経済学部助教授)