私は,長年社会科学の古典を読む会や労働講座などの講師として,親しく接する機会をもった働く若い人たちや,ひろく一般の経済学徒にこの書が独習書として利用されることを願っている。そしてまた,聖書とシェイクスピアの作品とともに世界史上もっとも長期の三大ベストセラーの一つにかぞえられてきた,古典としての『資本論』の根幹にあるものを見極めようとしている人たちに,本書が労働価値論理解の手助けになればと念願している。学術論文調に流されないように気をつけたが,そのために内容を薄めるといった妥協は,いっさいしていない。屋上に類屋をかさねることなく,終始ひたすら正確と,可能な最大限の平明を追求した本。
第一部 正統労働価値論のままでわかる
一 商品と価値法則
1 商品の価値と価格
2 価値の実体は何か
3 価値の大きさは商品の需要供給関係から説明でき
ない
4 具体的有用労働と抽象的人間労働
5 グラフ上の需要・供給曲線は何を語り,何を語っ
ていないか
6 使用価値は,なぜ価値の大きさに影響しないか
7 水とダイヤモンドの値段
8 “だっこちゃん”と名画の値段
二 資本と価値法則
1 現代の複雑な商品にふくまれる労働量が,どのよ
うにして「確定」されるのか
2 経済学の方法論からみたここまでのまとめ
3 賃金労働者が売るのは,労働でなく労働力である
4 労働力商品にも使用価値と価値がある
5 利潤をうみだすからくり
6 剰余価値率の均等化
7 労働力の育成費差は,剰余価値率均等化の障害に
ならない
8 生産価格の衣の下でも,平均剰余価値率は均等化
している
9 生産価格のもとでも,社会的総労働の均衡配分は
実現している
10 剰余価値生産の方法
11 相対的剰余価値増大の三段階
12 労働価値論の実証
13 賃金格差は,労働価値論の障害にならない
第二部 反論を駁す
一 複雑労働の還元に先だって複雑労働力の価値を前提
するのは,矛盾していないか
二 複雑労働の還元に先だって均等な平均剰余価値率を
前提するのは,矛盾していないか
三 単純商品生産社会での労働還元に,労働力の価値や
平均剰余価値率はもちだせないはずだが?
四 批判になっていない森嶋通夫氏のマルクス価値論
「批判」
第三部 異論の吟味
一 杉本栄一氏の“名著”がおかした大ぽか(生産力還
元論)
二 安部隆一・白杉庄一郎氏もおかしていた,杉本説と
同根の誤り(生産力還元論)
三 荒又重雄氏の「試論的解明」によろめくのは禁物
四 “宇野派”とよばれる人たちの価値論争がたどった
軌跡は,何を語っているか
1 「流通論」での価値
2 “買いもどし論”から等価交換の否定へ
3 ふたたび等価交換の肯定へ