現代日本文学に見るこどもと教育 |
|||
私は,1999年に『おとなのための絵本の世界』を出版しました。その本では,絵本に学びながら,現代のおとな・教師がこどもの真実の気持ち・感情にどうしたら出会えるのか,こどもの抱えている苦しさや悩みに,どうしたら共感できるかを考えました。
さて,本書はその姉妹編とでも言えるものです。私は高校生ぐらいから文学がすきになり,一度は文学部へ行くことも考えたこともありました。そして,特に大学生になって教育学を学びはじめてからは,こども・青年,教育・教師などを対象にした,小説・児童文学を読み続けてきました。そして,その中で,文学作品が作品を通じて教育問題の解明に取り組んでおり,優れた作品を読むことによって,現代のこども・青年の抱える問題や,教育・教師の抱える問題のありか,そしてその問題解決の方向が見えてくることが分かってきました。 さて,昨年は特に少年事件が続発し,その問題に関して論じた著作,ルポルタージュが数多く出版されています。このような中で,文学の世界でも例えば,いじめの問題を扱った『ナイフ』(重松 清),少年による殺人事件を扱った『13歳の黙示録』(宗田理),あるいは,登校拒否・不登校問題を扱った『いつかきっと!』(横沢 彰)などが出版されています。 本書では,1970年代半ば以降の文学作品を取り上げます。それは,1970年代半ば以降こども・教育に関する文学作品がとりわけ多く世に出るようになったこともありますが,次のような意味で,70年代半ば以降を『現代』と言う言葉で一括りに見ることができると考えるからです。すなわち,第一に1970年代半ばのオイルショック以降,企業はその生き残りのためにより一層合理化,労働市場の変革をすすめ,その結果,日本の企業社会化は一気に加速します。そして第二に,日本の家庭も,企業社会化の影響を受け,父親は企業戦士,母親は教育ママ,こどもは受験戦士として,こどもをよい学校,よい会社へ入れるために家族相互に役割を分担しつつ,闘うと言う「教育家族」「業績家族」と言う家族形態が日本全体をおおい始めたこと。さらに第三にこどもが塾通いなどのために地域からいなくなり,学校の受験準備のための機能を著しく強めると共に,第三次非行ブームに対処するために管理主義的な傾向も一層進み,学校が息苦しい場にかわり,こどもの不登校などもそれまでとは一転し,増加に転じること,などの状態が,私が70年代以降を現代と言い,本著で分析の対象とする理由です。 さて,それでは,その現代の文学・児童文学に学びながら,それらの文学作品がどのような視点,問題意識から,どのようにこども・少年・青年の問題,あるいは,教育・教師の問題に迫っているのか,更に,それらの作品に学ぶ中で,こども・教育の問題がどのように見えてくるのかを読者のみなさんと一緒に考えあいたいと思います。(「はじめに」より) 第1章 受験競争・管理教育をめぐって 1 受験競争をめぐって 2 管理教育をめぐって 第2章 いじめと不登校をめぐって 1 いじめをめぐって 2 不登校をめぐって 第3章 こどもの自殺 非行・少年事件をめぐって 1 こどもの自殺をめぐって 2 少年非行と少年事件をめぐって 第4章 こども・青年の性をめぐる問題 1 性的虐待をめぐって 2 摂食障害をめぐって 第5章 こどもの中の希望と未来 1 思春期葛藤とこどもの成長 2 こどもの新しい感覚・力の育ち 3 こどもの自己肯定感と共感的他者について |
|||