この本は,もともと『すっとびロクスケ』(筑摩書房)という題名で1980年に出した本に,章ごとに四行ずつの橋わたしをつけくえわえ,『山道あるき歌いだし』という新しい題にした長い部分と,『ほんとの誕生日』(楡出版)という1993年に出した本のなかの独立した一章「厄払いの唄」という短い部分とから,成り立っています。
『日本農業新聞』に毎週一回の連載中,ロクスケやおタエたちに,わたしは,思うぞんぶん山々の中へ入っていかせた。連載が終わってからかなりの分量の書き足しをして,ロクスケたちといっしょに,こころゆくまで山登りの味わいを描きこんでみたいと思った。なお,子どもたちの声に出す「はげやまのうた」は,『もぐらのうた』(理論社刊)から,怪物ゲナグセジュとの対話は,『あわていきもののうた』(晶文社刊)のなかの「ゲナグセヂュ」からと,それぞれ以前のわたしの詩集からの引用である。「ハチのとげ」の章に,わたしの最初の池田竜雄氏との絵本「ロクとハチのぼうけん」(福音館書店より再刊)が組みこんであることもつけくわえておきます。この本での山々も,どこか特定の山ではなく,わたしの山歩きしたなかから,生れてきて誘いやめない心のなかの空想の山々を駆けずりまわりたい願望をこめて書きとめていった。
「厄払いの唄」は,場所は京都,チュウスケの回想が芥川竜之介の睡眠薬自殺と関連づけて喋られていることからもわかるとおり,昭和という年号でくくられる年代の初期から後期に大きくまたがっている。
(本書「あとがき」より)