世界的な環境破壊から発せられる高度に発達した人間社会の在り方に対する危機感と警告は,社会・経済・政治システムの変革,南北・地域・個人の格差の現状を視野に入れたライフスタイルの転換,異界の他者として人間社会と共存すべき野生生物との新たなる関係性の構築など,道徳的倫理的義務を伴うラディカルな問題として人類がォ取る課題である。そのような地球規模でのラディカルな人類の課題の解決に向けて,環境教育は環境保全と民主主義・平和の持続可能な世界を想像し創造する次世代の中心である子どもたちの教育の転換にアプローチするものである。
子どもの環境教育は単に知識の習得を目指すだけではなく,環境保全と民主主義・平和の持続可能な世界に向けた変革をすすめる国の主権者としての「知恵と力とわざ(思考と実践の枠組み)」の基礎・基本の習得を通して,生涯にわたり協同しながら主体的に考え実践できる人間形成の教育を目指すものである(「序論」より)。
第1章 序論
第1節 問題の所在
第2節 研究をめぐる背景
1 環境教育・ESDの歴史と学校環境教育
2 協同的活動主体形成と学校環境教育
第3節 研究の対象と方法
第4節 論文の構成
第2章 学校環境教育の原理的考察と学校教育の転換
―地域(生活・自然)を学習対象に学びと活動を統一する―
第1節 学校教育の転換を射程に
第2節 活動すること学ぶこと
第3節 オルターナティブな地域の構想と創造
第4節 知恵と力とわざの獲得
第5節 学校環境教育実践構造
第3章 学校環境教育における子どもの人格形成と教師
の力量形成―協同的活動主体形成と教師の指導―
第1節 はじめに
第2節 教育を地域と結ぶ学校環境教育実践を生み出す教師
の力量形成
1 学校環境教育実践の構造と協同的活動主体という子
ども観
子どもの活動と学びを統一する学校環境教育におけ
る教師の指導,教師は制度知/学校知を相対化する実
践的研究者として立ち現われる
第3節 教育を地域と結ぶ学校環境教育
1 協同的活動主体としての子どもの言説と活動
2 子ども自身が環境観を育てる
3 環境計画を生み出し活動と学びを統一する子どもの
能動性・主体性・当事者性の発現
第4節 子どもの教育を地域と結ぶ環境教育における子どもの
人格形成と教師の力量形成
第4章 学校環境教育実践構造と分析視座
―学習者であった小学生たちの聞き取りから―
第1節 協同的学習主体形成としての「僕らはトンボ探検隊」
(1995年度)
第2節 協同的活動主体形成としての「隅田公園再生プロジェ
クト」(2005年度)
第5章 学校環境教育をめぐる現状と課題
第1節 北海道釧路湿原周辺小学校における環境教育の現状と
課題
1 調査結果概要と考察
2 これからの学校環境教育に向けて
第2節 価値観形成と学校環境教育
―これからの公共性を育てる道徳教育に関わって―
第3節 地域と学校教育を結ぶ野生生物保全教育としての環境
教育−北海道標茶町虹別中学校シマフクロウ保護活動と
「コロカムイの会」の事例から−
1 絶滅危惧種シマフクロウと「コロカムイの会」
2 地域と学校教育を結ぶ野生生物保全教育としての環境
教育
(1) 活動と学びの統一
(2) 環境の中で 環境を通した学び
(3) 「コロカムイの会」の持つ教育力
(4) 地域を創る中学生
(5) 知恵と力とわざの獲得
―原体験知・活動知・内容知をめぐって―
第6章 総合考察
第1節 各章の成果
第2節 総括
第3節 研究課題
参考・引用文献
初出一覧
参考:大森享著『小学校環境教育実践試論』
A5判並製164頁 1600円