(1)これまで日本人は、還暦,古希,喜寿等を迎えた高齢者の長寿を,みんなでお祝いをしてきました。しかし,人生80年,90年時代になると長生きする人は稀ではなくなり,病気や介護の問題や,所得,一人暮らしの人の住宅の保障の問題がでてきて高齢化は昏迷を深めつつあります。そのこともあって,長生きを単純には長寿として喜べないような状況になってあります。いうならば,長寿の問題と衣食住などと所得,介護,医療などの問題をどう接合させるかが,今,社会は問われています。そのうえで高齢の方々の「生きがいを持てる健全で安らかな生活の保障」(老人福祉法2条)がどのようにしたら実現できるかが今日の高齢社会の大きな課題です。
(2)他方,今日の高齢者といわれる方々は,第二次世界大戦で家族や財産をなくしながらも,生きるために,家族を養うために,そして企業の成長,発展を含めて日本経済と社会の進展のために尽力してきた人々です。そのような方々が高齢期を迎え,ようやく自分らしく生きることができる状況になったとき,友人,知人が,「ボケ」て徘徊したとか,リフォーム詐欺にあって財産をすべてなくしたの報に接し,とても辛い気持ちになっています。また,前述した友人の悲報に接して少なからずの人は,自己が判断能力が不十分な状況等になったとき,誰が自分の生命,身体などの安全を確保し,治療や介護などに関与してくれるのか,長年にわたって形成してきた自分の財産を誰が適切に管理してくれるのかの不安をもつに至っています。
(3)私達法律家は,前記のような悩みや苦しみ等をもっている高齢者の方々が少しでも安心して生活ができるよう,法的な問題について支援をするべく決意をしています。しかし,私達のこれまでの取り組みは成年後見の問題を一つ取り上げても必ずしも十分な対応ができていません。そこで,高齢者にとって身近な弁護士となり,高齢の方々に気軽に相談にのってもらえる法律家になるにはどうしたらよいかです。結論を先に述べれば,弁護士が高齢者や,その支援の方々に接近し,高齢の方が相談の方法や費用の点でも安心できる方法を構築することです。今,大切なことは,高齢者の生命,身体の安全や財産を護り,安心して生活できる方策を検討することです。そして,衣食住プラス医療と介護を憲法25条の公的責任で保障することです。高齢の方々が自分らしく安心して生きることができる支援のことを私達は権利擁護と述べています。それは,高齢の方々が元気なときは,本人の自己決定権を最大限尊重するとともに,本人の心身が弱ったり,判断能力が十分でなくなったときは本人のこれまでの生活の歩みを尊重し,最善の利益を追求する支援のことを指します。(「序」より)
目次
第1.高齢社会と弁護士の役割
1.高齢者問題への関わり
2.高齢者の福祉の歴史と問題点
3.弁護士会の高齢者問題への取り組み
4.高齢者の人権と弁護士の役割
5.高齢者の生活と法律相談
6.弁護士の専門性について
第2.弁護士の相談・解決と他の職種の人の違い
1.はじめに
2.高齢期の相談にあたっての留意事項
−後見業務との関係で−
3.介護サービス契約における成年後見人の役割
4.介護事故と裁判の関わりについて
5.相続と税金について
6.相続と高齢者の生活の安定
7.遺言書作成と遺言執行者の役割
第3.おわり
参考:高野 範城 著作
『社会福祉と人権』 46判上製220頁本体1500円
『乳幼児の事故と保育者の責任』46判並製 236頁 本体 1500円
『子どもたちの事件と大人の責任』46判上製 252頁 本体1300円
『人間らしく生きる権利の保障』46判上製 288頁 本体1800円
『介護保険法と老人ホーム』 46判並製 220頁 本体1600円
『現代福祉国家と企業社会における弁護士の役割』46判並製 338頁 本体1900円
『措置と契約の法政策と人権』46判並製 210頁 本体 1500円
『障害者の自立法制の問題点と今後の課題』46判並製 210頁本体1500円新刊
『社会福祉立法と司法の役割―憲法25条と立法裁量権を中心に』46判並製308頁本体2000
『高齢者の生活の安定と法知識』46判並製 234頁 本体 1200円