労働価値論の古典的論争の考察などを通じて,マルクスの経済理論の構造が一般的に考えられている価格論や価値論とはまったく違っているだけではなく,そもそもの解明すべき課題が異なっていると考えるようになった。そこで,初期マルクスにさかのぼって,彼独自の理論がどのような問題意識のもとに成立してきたのかについて考察を行った。
こうした一連の研究の結果が本書である。本書の第3 章が,最終的に筆者が行きついた結論である。マルクスは,人類の歴史を「労働」の発展段階によって通史的に考察する唯物史観という方法論を用いていて,その「労働」を資本主義分析のためのカテゴリーである「価値」へと変換するための理論として労働価値論を用いている。そこで明らかにされるのは,資本主義社会で労働が社会的に媒介される際にとる独自の「形態」である。資本主義社会では,労働は一元的に「量」に還元されて媒介され,モノの量的等値が社会的関係を全面的に支配することがこの理論によって解明されている。(「あとがき」より)
目 次
序 章
第1 章 初期マルクスにおける労働価値論の形成過程 第1節 本章の問題意識
第2節 労働価値論以前の労働価値論の形成過程
2-1.『ライン新聞』段階
2-2.「ヘーゲル国法論(第261 節―第313 節)の批判」段
2-3.『独仏年誌』(「ユダヤ人問題によせて」)段階
2-4.労働価値論以前の労働価値論の形成過程のまと
第3節 『経哲草稿』,および『パリ・ノート』段階での
労働価値論の拒否
3-1.「疎外」をめぐる問題
3-2.人間の類的本質としての「労働」
3-3.疎外論による労働価値論の拒否
3-4.フォイエルバッハ的疎外論とその困難
3-5.『経哲草稿』および『パリ・ノート』段階のまとめ
第4節 唯物史観の確立と労働価値論の受容
4-1.はじめに
4-2.フォイエルバッハ的疎外論の克服と「社会の本質」とし
ての労働
4-3.分業論と「紐帯」の展開
4-4.唯物史観の確立と労働価値論の受容
第2章 マルクス労働価値論の基本的前提 はじめに
第1 節 「社会の本質」としての労働
第2節 唯物史観による「労働」概念の具体化
第3節 投下労働価値説と単純商品生産説
第4節 労働価値論の前提としての資本主義社会
第5節 本章のまとめ
第3章 「生産関係」としての労働価値論 はじめに
第1 節 紐帯概念から「生産関係」へ
第2節 「生産関係」=労働の社会的媒介関係としての価値
第3節 労働価値論のいくつかの争点について
第4節 「生産関係」としての価値の端緒範疇としての意味
第4章 『資本論』冒頭の二重の「捨象」について 第1節 問題の所在
第2節 二重の「捨象」に潜む問題点
第3節 『経済学批判 第一分冊』の叙述とその特徴
第4節 『資本論』初版における叙述の変更とベイリーの影響
第5 節 『資本論』第二版以降の叙述とその特徴
終章 労働価値論の可能性 引用・参考文献
、本の検索、 経済学.etc.
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