書評『山道あるき歌いだし』
ことばの森の優れた案内人

(8/3)更新!!

 優れた童話には神話の原形が隠されている。作者が意識するにせよ、しないにせよ、子どもに物語るという行為は、すでに神話世界への扉をたたいているのだ。
 文学の世界でも、初めに童話があり、最後に童話があるといわれる。だから子どもにやさしく物語るということは、多くの文学行為を経てきた大人には難しい。そこでは、文章と構成が一体になったシンプルな表現が問われることになる。何せ子どもたちは、これから「ことば」の森に迷いこんでいかなければならないので、作者には森の案内人としての責任がのしかかる。多くの優れた童話は、ことばの森の立派な案内人である。
 神話といってもよいが、童話の原形の一つに、「未知への冒険」がある。未知を探るという知的、肉体的行為は、子どもの特権ともいえるが、人間の隠し切れない欲望でもある。未知への途中には大きな難関があり、それは「迷いの森」であったり、「怪物」になるときもある。
 そこを乗り越えることが、童話の目的かもしれない。だが宝物を手に入れたり、怪物を倒すことだけが目的ではない。
 本書もまさに、これぞ童話の典型である。不思議な少年ロクスケは、多分現実から未知への案内人だろうし、風の又三郎である。四人の仲間たちも、面倒くさくいえば、人間社会の基本的な四つの機能集団(首領・呪術師・戦士・道化師)の原形である。この基本から現代社会の四つの職能集団が構成されている。太古もいまも変わっていない。
 著者は著名なアメリカ文学者であり、詩人でもある。世界に広く知のアンテナをもっており、そこから配信された知のトータリティーが童話に結実している。海外に広く翻訳紹介されてほしい。
 『ぼくらのペガサス』『ふんすいのうた』『花のきもち』『飛ぶ声をおぼえる』も同社から出ている。
(評・亜沙ふみ郎)

『望星』東海教育研究所より

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