メディア掲載・関連書評 etc.8(創風社 Web紹介分のみ)

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高森俊著『子どもの絵は心』(『美育文化』2004 vol.54 NO.6)(評 しまざき きよみ)
折出健二著『市民社会の教育』(季刊『人間と教育』43)「『市民社会-の教育』を読む」
植田浩史編『「縮小」時代の産業集積』(2004年12月5日 中小企業家新聞)
『子どもカレンダー』「パウル・クレー 烙印を押された画家」( 04/9/20 NHKハイビジョン特集)
小川雅人、毒島龍、福田敦著『現代の商店街活性化戦略』(『経済』NO.107)

高森さんと初めて出会ったのは1953年8月24日である。創造業育協会(創業)発起人の一人、池田栄氏に連れられて創業第2回全国ゼミナール軽井沢大会にやって来た。そして私が宿舎長をやっていた山小屋に入った。まだ多摩美術大学の学生であったと思うが、その頃からゼミナール(創美ではゼミナールではなくゼミナールという造語を使っている)での彼の言動は注目されていた。後に知ったことであるが創美のバイブルであるホーマー・レインの『親と教師に語る』やA・S・ニイルの著作集は既に読んでいたようである。 
 その後、大宮や川崎の中学校の美術の教師になり定年まで勤めた。その間、創美の全国、地方、各学校、園ごとの研究会には熱心に出かけた。そして専門であるはずの中学生の絵から、小学生、幼児の絵にまで守備範囲を広げていった。むしろ現在では幼児の絵の方で注目され、全国的に活躍している。
 その高森さんが今まで書きためたものを纏めて『子どもの絵は心』という本を出した。A5判423ぺ一ジ、カラー図版約80点、そのほかにほとんど毎へ一ジのように入っている白黒の図版、その図版のカラー・データーその他の入っているCD-ROM付きという豪華で親切な本である。これを読むと美術教育がわかると同時に彼の自己分析により美術教師として成長していく心の軌跡を知ることができる。 
 高森さんは良い絵と良くない絵の差は技術の問題ではなく、それをかいた子どもの心のあり方や、加えてその子に接している教師の態度、その根底にある思想によるものであると捉らえている。これらの姿勢は彼が愛読したレインやA・S・ニイルの影響であると同時に、彼が敬愛した久保貞次郎や北川民次よりの感化と長年の実践と研究会の中で研鑽していったものであろう。
 高森さんは川崎の中学校在職中に荒れる中学生の時代を経験した。この時自己表現(絵画での自己表現を含めて)の経験不足が思春期の反抗的非行につながるという考えをより強いものにしたのではないかと思う。それとともにその子たちに直接接する教育の実践者の態度も問題にしている。文中でも教師が権威主義を捨て子どもの心の中に溶け込む精神の自由さの重要性を、行きづまる度に自己反省を込めて確認している。その中には成功した経験を繰り返す危険性にも触れている。創業の創立委員の一人、瑛九も答の出たクイズを解く馬鹿はいないと言っていたが、高森さんもそこには教師の精神の停滞が存在するからと書いている。
 絵を見る基準は子どもの心の自然な、そして正常な発達を元にしている。それを絵の中の線や形、筆跡のスピード感、色などから読み取り、その事例をたくさんの作品を通して分析し問題点を含めて初心者にもわかるように具体的に見せている。親や教師のための親切な良い参考書である。(しまざき きよみ)

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「市民社会の教育」を読む

高橋 廉



 本書を刊行された折出健二氏は、生活指導・集団づくりの最前線で問題提起を続けておられる研究者である。
 本書のねらいは「市民社会をどのようなものとして築いていくのか、その過程での教育的関係性はどうあるべきかを、主として生活指導研究の立場から考察したものである」(あとがき)に見られるとおりであるが、とりわけ、これまでの民間教育運動における生活指導・集団づくりの批判的再検討を大胆に提起する書として、私たち現場でも大いに検討されるべき書である。
 私がメモした「批判的再検討」の視点をいくつかあげてみる。
 「従来の実践構想では、『民主的』を冠して『民主的集団』を掲げたにせよ、制度的な公の構築に重点をおく方法論であった点を批判的に相対化しながら、個と個の民主的で共同的な関係を子どもたちの世界にどう保障していっかを探らなければならない」(七四頁)。
 「民主的集団づくりで重要なのは、集団を動かすヘゲモニーを指導機関に集中させる構想よりも、集団の民主化の土台となる関係性と関係認識を広げ、それらを子どもたちのネットワークとして指導し、制度・機関を越えて多様なミクロ・デモクラシーの世界を子どもたちとともにさぐることである」(二三一頁)という指摘である。このように、従来の集団づくりを「公の構築に重点をおく方法論」「集団を動かすヘゲモニーを指導機関に集中させる構想」として問題にし、「集団の民主化の土台となる関係性と関係認識」「多様なミクロ・デモクラシー」のある集団づくり、すなわち「ネットワーク型集団づくり」を提起する。逆にいえば、従来の集団づくりは、子どもの関係性や集団のデモクラシーを多様なミクロレベルで保障してきたとはいえないという批判である(しかし著者は、従来の集団づくりは「歴史的規定を受けて」いたとする見方をとり、社会的・歴史的な批判的相対化という誠実なスタンスをとるものになっている)。
 これらの提起は、「共同を前提としない公共性はありえない」という視点に立った「市民的な公共性」の立場から行うものであることが、序で詳しく論じられている。
 私は、折出氏が代表の任についておられる全生研(全国生活指導研究協議会)に属し、ともに研究に参加しているが、全生研はこの折出氏の提起を重要な視点の一つにしながら、これまでの集団づくりを新たな「子ども集団づくり」に転じていく試みをしている途上にある。そうした意味でも本書は、全生研の研究史上に大きな位置を占めるものである。同時に、本書を積極的に受けとめつつ批判的に応答していきたいと考えている。例えば、「制度的な公の構築に重点をおく方法論」の批判はラジカルであるが、同時に、現場の実践は否応なく制度的な公を舞台にする場合が多い時、制度的な公を介して、市民的な公共性・共同的グループ・ミクロ・デモクラシーを導きだす公の位置・役割・構築を、公の内側から進める理論的スタンスが読みとりに<いところがある。実践分析編の中でその課題意識が読みとれるが、前後の章で公の偏重への批判的論調を展開していることとの間には、分断があるように思う。(たかはし・れん和光高校)

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 本書は、植田浩史氏(大阪市立大学大学院創造都市研究科助教授)が代表の工業集積研究会の成果として出版されました。書名にあるように、九〇年代に製造業の縮小傾向により、日本の産業集積が縮小に拍車がかかっている状況をどのように考えるべきなのか、という問題意識から本書は出発しています。
 その分析対象は、東大阪地域、大阪市西部、北海道旭川家具産地、岡山県児島アパレル産地などですが、兵庫同友会のアドック神戸も章を立てて分析しています(第六章「中小企業連携の効果とベンチャー化」)。
 本書の特徴は、産業集積の量的「縮小」が、これまでの経済成長パターンが変化したことによるものと捉え、産業集積の新しい課題や展望を事例も示しながら考えていることです。
 興味深いのは、産業クラスター論と産業集積論の違い。「産業クラスターは、産業集積をベースにしているが、そこでは面としての地域を問題にするのではなく、点としての企業や大学等の機関をいかに結びつけ、新しいものを生み出していくのか、が課題とされており、産業クラスターと産業集積の違いが重視される場合もある」と分析し、産業集積に対して一面的な評価が生まれていると指摘します。産業集積は、雇用や地域経済、地域社会との関連でも位置づけられるべきであり、産業クラスター論ではこの点が欠けているとして、産業集積の多様な方向性と可能性を「縮小」時代にどのような展望をもてるか、問題提起を行っていきたいと植田氏は結んでいます。
 事例には、アドック神戸をはじめとする会員企業が登場し、親しみのもてる問題提起の本です。
 創風社発行エ〇三-三八一八-四一六一、定価二千九百四十円(税込)

(2004年12月5日 中小企業家新聞)

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『子どもカレンダー』「パウル・クレー 烙印を押された画家」
( 04/9/20 NHKハイビジョン特集)

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小川雅人・毒島龍一・福田敦著
『現代の商店街活性化戦略』

永山利和

「全国商店街実態調査」による商店街の繁栄・衰退状況を見ると、繁栄が2.2%、停滞が52.8%、衰退が38.6%であるという。ほとんどの商店街(その多くは中小商業の集合体)が停滞・衰退に陥っている(P117)。商店街を取り巻く社会・経済環境は、少子・高齢化、行財政再建、雇用流動化、福祉見直し、コミュニティ劣化、治安悪化、ごみの多産・資源浪費等の重層的に問題を抱えている。この条件下で「商店街が地域社会に於ける存在意義を再発見するための機会として前向きに捉え行動するか、消費需要が縮小することを懸念して、あるいは脅威として後ろ向きに捉え行動しないか、(によって)……存在意義が規定される……地域社会との関わり方を後ろ向きに捉える限り逆風下にある多くの商店街に光明がさすことは考えにくい。地域社会と共に社会的な課題を解決していく主体の一つとして商店街の役割を考えていくことこそが重要になる」(P128)。これが本書のモティーフである。
 著者たちは、商店街の本質的規定(第一章)に始まり、その実質的担い手の再生・活性化が必要な商店街の実態、旧型商店街の衰退と新興勢力の台頭、ハイタッチ化への接近などに対する意味を問い(第二章)、ハード(アーケードから大型店の立地も視野に入れた商業機能整備)に、多様化した顧客ニーズ時代の到来を確認し(第三章)、これを歴史的に位置づけるために"まちづくり三法"を中心とした政策形成と中心市街地商店活性化政策における政策認識の大きな転換を、TMO(Town Management Organization)分析における現代的商業経営展開と関連づけて論じている(第四章)。加えて、現代商店街は、様々な類型を取って展開しているとともに、各種の共同事業が地域社会協働と結んで展開し(第五章)、地域活性化に向けて各種の地域組織および行政との多様な連携を構築し(第六章)、地域商人育成、地域商業リーダー養成が過保護体制から組織相互のギブ・アンドテイク関係で進むべきことを指摘し(第七草)、地域社会の変容と多様なコミュニティビジネスとの連携や地域通貨の活用を視野に入れ、商店街が地域社会・経済のプラットホーム化を目指し、地域再生と同軸化して(第八章)、地方分権が進むなか、地域商業振興に地方自治体と手を携える可能性と重要性を訴えている(第九章)。  
 日本の商業、とくに小売商業経営とその集積である「商店街」、個別企業が集積した商店街、"商店街形成元素"である諸経営が直面する様々な困難があるが、これを嘆き、政策不足・不備を批判するだけでは再生できないと断言する。そうではなく、厳しい変化を新たな課題への挑戦機会と捉え、前向きに福祉、環境、コミュニティの結束力という多元的、社会的・経済的要素を基軸にすえる。そのうえに個別経営、商店街そして少子・高齢化問題を抱える日本の社会・経済を活性化させるため、商店街が果たす課題は多い。これを基礎に、地方自治体支援策を、ぶら下がり型ではなく、主体的支援方策として「協働」的に活用する方向を提起する。
 それは決して空理空論ではなく、よく見つめてみれば多くの既存のインフラストラクチュアがすでに存在しているという。たとえば、商店街のサポーターとして、「NPOや婦人団体、福祉団体など地域社会の生活者が快適に暮らせることを願望する人や組織とのパートナーシップ(協働)」が大事であると指摘する(P44)。しかし問題は商店街を構成する主体、商店側にもある。たとえば、「商店街の不振を組合や役員の責任にして、自店の問題や消費者の声に目や耳をしっかりと向ける姿勢があまりに希薄ではなかったかと思われる。…-行政機関の会議で触れる議題の根本には、商人が立地する地域の中に根付く姿勢が感じられない」と指摘し、「ゴルフや旅行にはせっせと足を運ぶだけでは、商売はおろか、自店を取り巻く地域の生活者の様子などには一向に関心もわかないであろう」と述べ、地域商人の主体的力量いかんが、「商店や商店街そして地域の課題解決とサステナビリティ(持続性)につながる道になると考えられる」と厳しい見解を述べる(P59)。ここに商店・商店街の存続・持続に向ける解決課題と主体的条件とのギャップをどのように埋め合わせるのかという課題が設定される。それは強力な地域商業進行のリーダー育成、政策支援、地域住民・市民組織との多面的連携、それを導き出す商店が抱える諸課題の協働的解決等を通じる一種の住民自治的行動と地方自治体の政策支援であると主張している。
 従来の商店街振興論における政府、地方自治体による上からの諸方策、あるいはそれを普及するためのハウトゥー的論議をも科学的俎上に上せ、しかも筆者たちが主張する地域社会における商店街が持つプラットホーム機能を現代的に実現する具体的方向を意欲的に提起している。しかし、"これで納得"というわけにもいかない。すでに筆者たちが気づいている、いくつか基本的な研究課題がある。
 そのひとつは、「大量生産・大量消費の過程で構築された川上型の産業構造の限界が、地域商業の末端で根付いていた商店街の存続危機という形で現れた」(P193)。とするならば、商店街振興は、国家レベル、国際レベルの産業政策との調整を要する。
 そのうえ土地利用、交通体系を長期安定的に維持し、商業空間の活性化を生む社会的基盤整備が必要である。この対応策は"ぶら下がり姿勢"ではない。ちなみに生鮮三品小売業の空き店舗化の要因は、鮮魚、野菜、食肉の海外依存と商社・大型店による中小卸売、小売商業の排除、なかでも中央・地方市場における仲買商の倒産・廃業と一体の現象である。消費者、中小企業家層の存立条件改善と商店街再生問題とが不可分であろう。 
 また、中小企業家の養成・育成は、今日最重要で、喫緊の課題である。だが後継ぎ難現象の背後には経営困難がある。アンドゥルプルヌール・シップ一(企業家精神)一教育の課題に加え、経済・経営に関する新しい知識で武装することを公共政策とするヨーロッパにおけるEU小企業憲章のような取り組み(ビジネス教育の義務化など)に通じる社会制度化論議が根本となる。主体形成論議テーマがまだたくさんある。次の研究が期待される。

(創風社・定価二五二〇円=税込)(ながやまとしかず・日本大学教授)
(『経済』2004 NO.107新日本出版社)

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